小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

【100-37】深海

「戻ったか」
「はい」
「…例の彼女は?」
「ここにいますよ」

そう言ってようやく、彼――門番・ランパートは振り返ってこちらを見た。
そこにいたのは、まだ意識の戻っていない少女と、それを抱きかかえる青年の姿。
少女はフリルをたっぷり用いた、しかし洗練されてしつこくないデザインのドレスを着、青年は汚れた薄茶色の外套を纏っていた。

「…ご苦労」
「…」
「そして次の仕事だ」

疲れを癒す間もなく、次の仕事へ。
尋常でない事態も、彼らにとっては当然であった。

「彼女を同伴し、行ってもらいたい場所がある」

だが、このような話は初めてだった。

「この子を連れて、ですか」
「そうだ。行った先で何をすればいいかは、行けばわかる」

このような、他者を同伴させて、目的も分からぬままに旅立つのは。
そんな怪訝そうな気配を感じてか、門番は幾つかのことを付け足し始めた。

「…彼女を目覚めさせる、というのが正確といえば正確な目的だ」
「…このままでは彼女は目覚めない、と」
「ああ。…見ただろう、お前も」

あの凄惨な光景を。
肉親が殺され、殺され、殺され続けていくシナリオを。

「遅かれ早かれ、目を覚ますことは覚ますだろう。しかしそれは仮初めでしかない」
「…精神的なもの、ですか」
「いや、もっと深い場所にある…そうだ、彼女の魂だ。その目覚めは、このままでは起こらない」

青年は、視線を下に動かす。
真っ青な顔で、どこか苦しそうな雰囲気をした少女。
――白かったであろうドレスは、今は血と埃にまみれてしまい、見る影もない。

「…門番」
「何だ」
「…つまり彼女は、私と同じ、なのですか?」
「…」

その、意図しているものは明確であった。
彼は元いた世界で罪を犯し、定められていた運命に誘われ、世界を超える力を与えられた。
その代償がこの仕事であり、また、その手を果てしない量の血で染めることであった。

「…さあ、」

私と同じことを、こんなに幼い少女にさせる気なのか、と。
黒い瞳は、静かな怒りをはらんで問いつめる。
まるで深海のように、ゆらりゆらりと、確固たる意識を抱いて。
だが門番は、それをそうと知りながら受け流した。

「それは、君が見てくるものだ」
「…」
「わかったならば、早く行った方がいい…全て、君のためだ」

この無情さも、無常さも。

「…了解」


――斯くして、新しい旅は、始まる。





+ + + + +


【門番】…メイカの上司たる存在。世界を監視し、その秩序を守る者。メイカにはどうも寡黙な大男に見えているらしい。


特に語ることもないので、次へ。
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by SSS-in-Black | 2009-02-28 20:53 | 【etc.】