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小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

【100-39】大地

薄く膜を張ったミルクを鍋からカップにそろそろと移す。
その一方でメイカの意識は、例の素性の分からない少女に関する自分なりの情報を再度確認していた。

(場所は「地球」に酷似した世界、時は恐らく近世の初期…)

一族郎党を皆殺しにされ、一人生き残った少女。
否、彼女は殺されたに等しい。
――彼女はもう、ただの人間ではなくなってしまったのだから。

(このままいけば、彼女も私と同じ…)

時空を転々とし、どこにも居場所を見つけられない、赤の道を辿ることになる。
それが、酷く恐ろしかった。

(…)

彼は、「断罪者」や「枝切り人」と呼ばれる存在であった。
それは世界を継続させるには欠かせない、しかし血濡れた存在であった。
今のところ、彼は同業者と会ったことがない。
だからこれがその最初になるのだということを薄々予期していたし、またその瞬間に立ち会うのが辛くもあった。
門番が果たして自分に何を期待しているのかはわからない。
だが、このような配置になったからには必ず理由がある筈である。

(…私に、彼女を育てろとでも? …冗談じゃない)

幼い少女に、世界の重みを背負わせろと、世界は要求する。
その重みを知るからこそ、彼は怖かった。

(…)

たっぷりとミルクが注がれたカップを片手に、メイカは少女の元へ。

(…まだ、己の立つべき大地すらわからないというのに、この娘は、)

その虚ろな目は、空の青い色を映す。

(その脆い土台の上で、全てを負わねばならないなんて、)

ふと、彼女はこちらを向いた。
涙がつう、と頬を流れる。

(…馬鹿々々しい、この世界なんて)

その叫びが、誰にも届かないのをいいことに。
メイカは、小さく怒りを吐き出して、

「…どうぞ、熱いですから冷ましてくださいね」

できるだけ優しく、柔らかく彼女に接する。
それが彼にできる、最高のこと。

「…」

小さな口が、カップの縁に触れた。
あつ、と空気を振動させた声。
――どこからどう見ても、世界を殺す力を秘めているなど、思えない。

「…、あの」
「? 何ですか、お嬢さん」

そういえば、まだ、互いに名前を知らせていなかったっけ。

「…私の名前は、」

――彼は直ぐに、彼女に纏わる力を知ることとなる。
その名前を、聞いて直ぐに。





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つぎー。
雪崩式にネタがばれていきます。
by SSS-in-Black | 2009-03-01 21:41 | 【etc.】