小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

【100-40】業火

その名前を聞いて、メイカは愕然とした。

「…ごめんなさい、今、思い出せるのはこれくらいで…」
「…わかりました」

彼女が告げたのは、ファミリーネームであった。名前は思い出せないのだという。
ショックによる断片的な記憶喪失のようである。
しかしメイカが驚いたのは、そこではなかった。

「…そのままでは呼びづらいので、ロッテさん、でもよろしいですか?」
「はい、喜んで」

その名字は、ある道では有名な一門のものであった。
そしてその一族の辿り着いた先も、また凄惨なもの。
――全ての辻褄が合い、符号が繋がり、一つの模様を描き出した。
何故、彼女の家の者は突然の襲撃で殺されなくてはならなかったのか。
そして、その血を引く彼女をどうして門番が選び、メイカが導くことになったのか。

(…また、なんて的確な配役を…)

彼女の家は、まさに人々を裁くために存在していた。
それこそ「断罪者」にふさわしい、咎人を屠るためだけに。
だから彼女の家は恨まれ、憎まれ、しかし誰かがやらねばならないという暗黙の了解の上に平穏を保っていられたのだ。
罪人を生かしておくことはできない、かといって彼らを殺すという行為は神に背く行為と同等である。
その「背徳の犠牲者」の数を減らすために、権力は処刑人の家系というものを設定した。
そして彼女は、それに準ずる出自を背負っているのだ。

「…」
「…どうか、しましたか?」

本人は、果たしてそこまで忘れてしまっているのであろうか。或いは、覚えているのであろうか。
問うことができれば話は早い。が、彼女はまだ家族を惨殺された痛みを受けたばかりなのだ。
ただでさえ不安定な状態の人間を煽って、何が手に入るのか――。

「…なんでもありませんよ、ロッテさん」
「そう、ですか…。…あ、あと、ロッテでいいですよ、えっと…」
「? …ああ、私ですか」

そういえば、彼女の名前とそれに纏わる逸話を思い出すうちに、まだ名乗っていないということをすっかり忘れていた。

「私は、メイカと申します。よろしくお願いしますね」
「…はい、メイカさん」

にこり、と笑ったつもりなのであろうか。
彼女は少しだけ頬をゆるませ、手元のミルクに口づけた。
カップを握る細い指と白い手が、網膜に焼き付いて離れない。

(…どうして神は、『彼女』は、こんな幼子を業火の中へ放り込むのだ…!)

それはどこへも響かない、不条理な運命に対する悲しみの叫び――。




+ + + + +


【ロッテ】…少女の愛称、どうやら名字の一部らしい。


というわけで、ようやく名前が出ました。
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by SSS-in-Black | 2009-03-03 19:34 | 【etc.】