小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

【100-42】宝石

一振りの剣を前に、メイカは一夜を明かした。

ロッテは一度も目覚めることなく、朝日が部屋に差し込む頃に目を覚ました。


「おはよう、ロッテ」

「…あ、おはようございます…」


一瞬の躊躇いは、唐突に変わった環境のせいであろう。

そもそも彼女はまだ、自分がどこにいてどのような状況に置かれているかも理解していないのだ。

メイカは良心の呵責に苛まれながらも、ミルクを温めるためにベッド脇の椅子を離れる。

剣はそのまま、放置した。


(…もしあの場で彼女を助けなかったら、という選択は無かった。…)


助けなかったとしたら、それは門番の意に反することだ。

またやり直しの命を下されるか、別の旅人が送られてくるかであり、彼女はこうなる定めにあったのだ。

――そう考えなければいけなかった。


(…首切り役人の娘、か)


あまりに似合いの仕事である。

だから門番は彼女を選んだのかもしれない。

あの日、彼女の一族が惨殺される時を狙って、彼女を時空の狭間へと浚い、そのまま歴史の渦の中に埋めてしまえば誰も困らないのだ。

一人の娘の存在など、簡単に闇へと葬られる。

それが「世界」の在り方なのだ。

何故ならその「世界」ですら一枚の「葉」の中で生じた小さなものであり、「意識」のほんの末端でしかないのだから。

それを確か人々はフラクタルと呼ぶのである。

永久に繰り返される螺旋の連鎖、と。


「…メイカさん」

「? どうかしましたか、ロッテ」

「この服って…」

「ああ。お気に召しましたか? 一応着替えに、と用意しておいたのですが…」


それは、門番から渡された服であった。

メイカの白いコートも彼からの支給品である。賜った、とでも言えれば良いのだろうか。そのあたりは微妙だ。

さて、ロッテが着ているのは黒を基調としたかなり厚手の服である。何故かベルトのような装飾が多用され、どこかの民族衣装のような雰囲気を醸し出している。


「…ありがとうございます」

「いえいえ。…おや、その髪飾りは?」

「あ…」


メイカはロッテの髪につけられた、紅い石のついた髪飾りを見た。

年期ものなのか、石を填めた金具は所々が錆びたり汚れたりしていた。その古びた感じがまた良いといえば良いのだが。

ロッテは一度頭の右側で結んだ髪を左へと流し、そのちょうど反対側で、髪飾りを使って留めている。かなり不思議で特徴的な髪型だ。


「…母の、…形見、です」

「…」


少し陰のある、呟きとも独り言ともとれそうな囁き。

少女はそれでも、気丈に振る舞ってみせる。


「…何もないよりは、いいでしょう? 母が誕生日にくれたんです、去年に。…」


濁る、声。

薄い肩ががたがたと震える。

――まだ、乗り越えろと言う方が無理なのだ。


「…よしよし」


メイカはそう言って、幼子にするよう、彼女をぎゅっと抱きしめた。

そう、まるで大切なひとかけらの宝石を、掌で包み込むかのように。





+ + + + +


【メイカの白いコート】…襟元に‘The Maker’と金の糸で刺繍がされている。

【黒を基調とした服】…丈の短いワンピースと長いマントのセット。メイカのように刺繍があるかは不明。

【紅い石のついた髪飾り】…紅い丸い石が中央におさまった髪飾り。かなりの年代ものらしい。
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by SSS-in-Black | 2009-03-05 09:21 | 【etc.】