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小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

【100-14】雲母

そこに、ある食材があった。


「さてと、まあ何も出さないってのも俺の信念に反するからな、ちょっと待ちな。腕によりをかけて美味しいのつくってやる、えっと…あんた、そういえば、名前は何て言うんだい?」


クレオが階段をゆっくりと上昇していく足音が遠ざかっていく。

鼓膜を叩く、軽やかでいて厳しい、古い木材の奏でる、ギシギシというメロディー。

それに重なるよう、ガロがカウンターの扉を押し開け、閉じて、料理の準備を始める。


「…申し遅れました、私は、旅人のメイザスという者です」

「ほう…『最後の風』か」

「…?」

「いやな、古代語の意味を当てはめてみただけだ。老いぼれの変な癖だよ…ああ、俺の事は『ガロ爺』でも『じいさん』でもいいからな」

「…私の事も、メイザスで構いませんよ、『ガロ爺』」


それと、と言って、メイザスは外套の下に隠れていた友人を呼ぶ。

彼女は器用に彼の肩口から頭の上にまで上り、にゃあ、と一声。


「…猫、かい?」

「ええ、厳密には違いますが」


猫、すなわちフィフィは、再び、にゃあ、と鳴く。

雲母を散らしたような瞳が、どうやらガロを迷わせたらしい。

キラキラひかる、怪しく光る、二つの瞳は人の瞳と大きく違う。


(『器』なんです)


子猫の肉体という。

ある魂を封じ込めた。

ある大切な人を閉じ込めた。

器なのです、と、旅人は、心の内で、呟いた。





+ + + + +


【食材】…鮮度に期待してはいけない、実も期待してはいけない、粗悪な素材。

【器】…肉体という器に入るのは、魂という内容。
by SSS-in-Black | 2006-12-05 22:18 | 【100 title】