【100-14】雲母
2006年 12月 05日
そこに、ある食材があった。
「さてと、まあ何も出さないってのも俺の信念に反するからな、ちょっと待ちな。腕によりをかけて美味しいのつくってやる、えっと…あんた、そういえば、名前は何て言うんだい?」
クレオが階段をゆっくりと上昇していく足音が遠ざかっていく。
鼓膜を叩く、軽やかでいて厳しい、古い木材の奏でる、ギシギシというメロディー。
それに重なるよう、ガロがカウンターの扉を押し開け、閉じて、料理の準備を始める。
「…申し遅れました、私は、旅人のメイザスという者です」
「ほう…『最後の風』か」
「…?」
「いやな、古代語の意味を当てはめてみただけだ。老いぼれの変な癖だよ…ああ、俺の事は『ガロ爺』でも『じいさん』でもいいからな」
「…私の事も、メイザスで構いませんよ、『ガロ爺』」
それと、と言って、メイザスは外套の下に隠れていた友人を呼ぶ。
彼女は器用に彼の肩口から頭の上にまで上り、にゃあ、と一声。
「…猫、かい?」
「ええ、厳密には違いますが」
猫、すなわちフィフィは、再び、にゃあ、と鳴く。
雲母を散らしたような瞳が、どうやらガロを迷わせたらしい。
キラキラひかる、怪しく光る、二つの瞳は人の瞳と大きく違う。
(『器』なんです)
子猫の肉体という。
ある魂を封じ込めた。
ある大切な人を閉じ込めた。
器なのです、と、旅人は、心の内で、呟いた。
+ + + + +
【食材】…鮮度に期待してはいけない、実も期待してはいけない、粗悪な素材。
【器】…肉体という器に入るのは、魂という内容。
「さてと、まあ何も出さないってのも俺の信念に反するからな、ちょっと待ちな。腕によりをかけて美味しいのつくってやる、えっと…あんた、そういえば、名前は何て言うんだい?」
クレオが階段をゆっくりと上昇していく足音が遠ざかっていく。
鼓膜を叩く、軽やかでいて厳しい、古い木材の奏でる、ギシギシというメロディー。
それに重なるよう、ガロがカウンターの扉を押し開け、閉じて、料理の準備を始める。
「…申し遅れました、私は、旅人のメイザスという者です」
「ほう…『最後の風』か」
「…?」
「いやな、古代語の意味を当てはめてみただけだ。老いぼれの変な癖だよ…ああ、俺の事は『ガロ爺』でも『じいさん』でもいいからな」
「…私の事も、メイザスで構いませんよ、『ガロ爺』」
それと、と言って、メイザスは外套の下に隠れていた友人を呼ぶ。
彼女は器用に彼の肩口から頭の上にまで上り、にゃあ、と一声。
「…猫、かい?」
「ええ、厳密には違いますが」
猫、すなわちフィフィは、再び、にゃあ、と鳴く。
雲母を散らしたような瞳が、どうやらガロを迷わせたらしい。
キラキラひかる、怪しく光る、二つの瞳は人の瞳と大きく違う。
(『器』なんです)
子猫の肉体という。
ある魂を封じ込めた。
ある大切な人を閉じ込めた。
器なのです、と、旅人は、心の内で、呟いた。
+ + + + +
【食材】…鮮度に期待してはいけない、実も期待してはいけない、粗悪な素材。
【器】…肉体という器に入るのは、魂という内容。
by SSS-in-Black
| 2006-12-05 22:18
| 【100 title】