小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

カテゴリ:【100 title】( 37 )

【100-36】船出


人生は、大きく転換する。
常に、転回の危機を孕んでいる。


「早くお逃げなさい、×××!」


運命は、大きく揺さぶられる。
常に、崩壊の予兆を察している。


「貴女は悪くないのよ! だから、お逃げなさい!」


世界は、大きく展開する。
常に、終末の時期を望んでいる。


「×××! さあ、貴女なら、ここから、出られる、から…!」


彼女は、信じることが、できなかった。


「さあ、早く、はやく…!」


嗚呼、なんてキレイな色をしているのだろう。


「逃げてちょうだい、×××…!」


なんてキレイな、赤なのだろう。


「私の、ことなんか、忘れて頂戴…!」


夕日、業火、血溜まり、お母様のドレス。


「×××…」


その赤は、彼女の意識を浸食してゆく。


「逃げ…て…」


嗚呼、なんてキレイな、滅びの色をしているのだろう。


「あ…あぁ…」


白い母親の顔を過ぎるように流れる、一本の血の筋さえ、愛おしい。


「×…××…ね、にげ…」


ぽちゃり。


「…」


代わりに、聞こえてきたのは、軍靴が荒々しく床を踏み、蹂躙してゆく音。


「 」


硝子が割れた、きっと二階の子供部屋で――私を、探しているのだ。




そう気づいた瞬間、漸く、彼女は叫ぶことを思い出した。




警鐘のように木霊する声を受け止めるのは、誰であろうか。


「 」
「 」
「 」
「 」


聞こえる会話も、近づいてくる会話も、聞こえない。


「!」


突然、背後にあった抜け道へと繋がるクローゼットが開く。


「早く!」


幼い頃、悪戯で兄とここで遊んだら、いつもは優しい母に酷く怒られた。


「ねえ、君! 早くしないと、早く逃げないと!」


母が取り乱した姿を見たのは、その時と、今日だけであった。


「ほら!」


ああ、そこへ入ったら、またお母様に怒られてしまうわ。


「 」
「 」


そうでしょう、お兄様…二階にいらっしゃるはずの、お兄様…。


「…っ!」


細い身体に、衝撃が走った。
そのまま少女は、臨界点を突破した意識を、手放した。




















「…はい、恐らく貴方の言っていた少女を。…ええ、ええ。…」


翠の海を、その船は滑るように走っていた。


「今は、気を失っています。…目覚めるか否かは、わかりませんが」
(…目覚めてもらわないと、困るのはメイカ、お前だぞ?)
「それでも構いませんよ。…一体この子に、何をさせようとするのですか」


青年はその舵を取りながら、どこからともなく聞こえてくる上司の声に応答していた。


(私にも解らない。…刻がくれば、きっと彼女自身が気づくだろう)
「…」
(兎に角、一度帰ってきてくれ。話はそれから、ゆっくりしよう)
「…了解」


そう言って、彼は静寂そのものとなった翠の海を、駆けるのであった。





+ + + + +


予定狂いました、すんません。
ちょっとササミのターンは放置。というより、一旦休憩に。

ちまちまこちらも進めていきます。
[PR]
by SSS-in-Black | 2009-02-26 16:02 | 【100 title】

【100-35】旅人

そこに、旅人が現れた。

彼は血溜まりに倒れる男女を見、男の方に近寄る。


「しっかりしてください、レオン殿」


右手には杖を抱き、左肩には精霊を乗せて。

メイザスは、重傷を負ったレオンの傷口に手を翳した。


「フク、転送用意を」

「わかった」


フクは主の肩から飛び降り、二人を囲むようにくるくると旋回を始める。

その足跡が円となり、その重なりが陣となる。

一方でメイザスは、手に仄かな光を宿していた。

口から紡がれる言の葉は、どこか異国の響きを湛えて。


「…そうだ」


詠唱を完了させ、右手で光を掴んだまま、今度は杖の先に光を灯す。

――それは、嵐のような凶暴な色をした光。

掌の光とは真逆の力を持っていると、誰が見ても直ぐにわかってしまう。

思いついたように彼はまた唱え始めて、呼応して灯された光も凶悪になってゆく。


「私は、あまり女性の、それも遺体を傷つけようなんて思いませんけど、」


それが契機となって、


「でも、今回ばかりは許してくださいね。…容赦しませんが」


風刃が、弾けた。

彼女の周りで飛び跳ねていた血の魚も、肉の小波も全て巻き込んで。

放たれた魔術は、その遺体をずたずたに裂いてゆく。


「メイザス、『飛べるよ』」

「…。ならば、『飛びましょう』」


フクの編んだ魔術も、主の最後の了承で完成する。

沸き上がる風、吹き止まない風。

怪我人を旅人は庇うように、レオンの巨大な肉体のうち特に胴を守るように、彼は実行を待つ。

司会の片隅には、断片へと姿を変えてゆく人体であったモノ。

吐き気をもよおすようなそれも、彼にとっては別につまらないものとなり果てていた。


「行くよ!」


宣言と同時に、二人は風の球体に閉じこめられた。

風、風、風、風――部屋の中がすべて、風になるかのような勢いで。

精霊は、二人を一気に、目的地へと飛ばした。

――残されたのは、肉を切り刻む風の音ばかり。





――それも、いきなりかき消される。

降り立ったのは、一人の少女。

年はまだ若く、黒髪が黒い衣服に溶け込む姿は幻想的ですらある。

彼女は惜しげもなく大気に晒した、黒い編み目模様に彩られた四肢をそっと動かし、跡形もなくなりそうなまでに切り刻まれた血肉の元へと歩を進める。


「やられたのね、『双魚』」


唯一の例外である、絶命したそのままの表情を浮かべた首に向かって。

語りかける様子にも、視線にも悲しみはなく、むしろ憐れみが強調されていた。

それは階級的上位にある者だけが浮かべることを許された微笑。

首を持ち上げ、手を汚す絶え絶えの血潮すら忘れて、少女はひとりごちる。


「でも、貴方のお陰で『獅子』の尻尾が掴めたわ。

 これで、また私たちが彼らよりも有利に駒を進められる。

 それに…あの男は、何者なのかしらね?」


精霊の使役による転送魔法。

呪文の行使による回復魔法。

意思の使用による攻撃魔法。

全てを同時に、為してしまう程の力量。


「嗚呼…楽しみね、『双魚』」


少し間を置いてから、補うように「だったモノ」と付け加えて。

少女の口から覗いた赤い舌が、まるで蛇のように、艶やかに身震いした――。





+ + + + +


【異国の響き】…正しく言えば「異世界の響き」。メイザスの使う魔術には異世界の律を取り入れたものも存在する。

【少女】…かつてスザクやサイレスに道を示した少女と似ているが、違う少女。

【意思の使用による攻撃魔法】…フクの加護を受けた杖の能力を引き出し、放つというある意味荒技。


久々に(ry

やりたいことができました。
『40』まではさくさくいきたいです。
[PR]
by SSS-in-Black | 2009-02-02 20:09 | 【100 title】

【100-34】信念

そこに、ある信念があった。

レオンは再び、外装を剥離する。

足場が消えて、なおもディーバは走り続ける。

彼女の一歩、それは辛うじて元からある刀身の上に乗せられていた。

外見ばかりを気にした靴は既に襤褸となり、剣の鋭さを伺わせる。

赤い靴を穿いて、刻々と深く染まりゆく両足。

それらが握りに到達しようとする直前、均衡が崩れた。

湿った靴が掴まれる。その手も綺麗な紅になる。

細い足首を握りつぶし、引きずり落として床に叩きつける。

女の長い黒髪が蛇のようにのたうち、男の左腕に襲いかかった。

鈍い痛み。それが男を更なる境地へと追いやる。

三度、装着。今度の外装は小回りの利く、いわゆる剣。

叩き潰すように蛇の頭蓋を撃破し、黒い血の吹き出す様から目を守る。

その行為は、正解であった。…血が更に、翼の生えた魚へと変貌する。

魚は水を求めて跳ね、かわしきれずに幾筋かの傷跡をつくる。

それでも右手で剣を振るい、粗方は切断しているのだ。

復活する兆しのないそれらを囮として、ディーバはするりとレオンの背後へ。

彼もただではそこを通さなかった。復活させた視界で彼女の影を捉える。

剣身で強く叩いた。斬れば斬る程、血は彼女の卷族を生み出す。

その行為でほんの少しだけ、毒牙の狙いが外れた。

首に叩き込まんとした有毒の爪が、肩の上を通過する。

細い手首を掴み、反動を利用してまた血塗れの床に叩きつける。

彼女自身、足からの出血が意外と大きいようで、直ぐに立ち上がることはできなかった。

その首筋に、外装を剥離させながらレオンは刃を当てがう。

途端にディーバが詠い出す。それは少しでも耳にすれば、狂気に引きずり込まれる凶器。

血溜まりに魚が跳ねる水音、調子を整える背後での演奏。

だが、それに狂わされる程、獅子の信念は生半可なものではなく。


斬。


最初に呼び出したものと同じ外装が、扉のような巨大剣が、女の腰を切断した。

どこからどう見ても、死に至る一撃。

――それを『急所』に当てなかったこと。

そのただ一つが、獅子の命運を分けた。


「 」


その言葉が何であったかを、知る由はない。

いや、恐らくは、呪詛の類なのであろう。それも使用者の命を蝕むような。

凶悪な呪いの言葉が、凶刃を振るい獅子の身に降り懸かる。


女が口から多量の紅をこぼして事切れる瞬間と、男が同じようにして床に倒れ伏した瞬間は、ほぼ同時。

そして静かに舞い降りる、暫くの沈黙――。





+ + + + +





【急所】…この場合であれば、発声を司る器官としての喉や口のことを指す

【呪詛】…古代種・セイレーンの用いた術。尚、彼ら自身は現在絶滅したとされている
[PR]
by SSS-in-Black | 2008-05-06 17:27 | 【100 title】

【100-33】決戦

そこに、ある戦場があった。


「『獅子』のガリレオが、何かこのような猥雑な店にご用ですの?」

「…その『ご用』の意味は、どうとればいい」

「さあ。貴方の思うとおりでいいわ」

「…なら、『ご用』だ」


刹。

華奢な女体の喉笛にまで迫る、大剣。

一度は剥離された外装だが、数分のうちであれば前置きもなく再装着ができる。

それだけではない――更なる危機が訪れ、その魂の震えに呼応して、外装は姿を変える。

ここまで極端に、刀身の長さのみを追求した剣は、使いづらい局面もある。

この姿を解除するには、また一度、剥離を実行しなくてはならない。

諸刃だ。そうではある。そうではあるが、そうしなくてはならなかった。

レオンは、代償を犯してまで、外装を喚び戻したのだ。


「随分と古風な意味ですこと」

「生憎にな。うちの義父が古典好きなんだよ」

「あらあら、まず既婚者であること自体、初耳ですわ」

「残念なことに、嫁さんには死なれちまったけどな。いい娘だったのに」


まるで日向で交わす世間話。

日陰で生死の天秤の上、行われるようなそれではない。


「そういういい奴ばかりが死んで、残るのはあんたみたいな奴だけさ」

「あら…私の顔が好みでないの?」

「どちらかといえば、陰気な厚化粧より、陽気な雀斑の方が俺の好みだ」

「まあ。…新路線の開拓も考えなくちゃいけないわね」

「似合わなそうだけどな」

「…よく言われますわ」


剣先に、微かな違和感。

肉だ。動かしてもいないのに、貫いた感覚がある。

否――それは自ら、貫かれていた。

刀身が撓む。

レオンは忘れていた、ディーバはその肢体で異性を惑わすのだと。

磨かれた肢体は、細く息づくひとつの生命。


「!」


細い身体で、壁際と剣先の間をすり抜る。

強靱な肉体で、剣の背中を駆け抜ける。

気づけば魔性は、既に目の前。


「ごきげんよう、『愚かなる獅子』」


そして視界は、黒に帰す。





+ + + + +





【『ご用』】…レオンはどうやら、悪事に対する使い方で用いたらしい。

【うちの義父】…ガロ爺のこと。名前を出してはならないと、とっさにこう呼んだ様子。



久々にこちらも。
いきなりやりたくなった…ちょこっと強化期間中。
[PR]
by SSS-in-Black | 2008-05-03 18:46 | 【100 title】

【100-32】美貌

そこに、古い手紙が落ちた。


「…?」


黄ばんでいる、黄ばんだ頁と頁の合間に挟まれていた、封筒。

拾いあげれば、壊された封印の蝋、その残骸が辛うじて残っている。

中身も、やはり黄ばんではいたが、あった。

約三年前に書かれた記帳の、最後の辺りである。

その宛名は、

『《真を唱える者》へ』

と、見事な筆記体で流れるように書かれている。

恐らく、あの少年に対してのものであろう。こんなにも意味深な手紙が、偶然このような場所の最奥に紛れ込むことがあるだろうか?

…いや、ない。

そして、レオンの逞しい、悪く表現するならば太い指が、慎重に内容物を引き抜いた。

引き抜き、内容を──書面がいきなり、旋回する。


「!」


限り無く純粋なまでに精製された殺気。

瞬間移動してきたかのように、それは突如廃屋に発生、浸蝕を開始する。

レオンは剣を再び手に、手紙を乱暴に懐へとしまった。


「──おい、お前はどいつだ?」

「…?」

「この国にいる人間で、お前みたいなオーラを撒けるのは、数えるくらいしかいないだろうが」

「…」

「どうせ、お前は」


室内の影という影がずるずると蟲のように這いうねり、ある一点を目指し、突撃してゆく。

量は無い、その筈なのに、重なって、造る貌は──


「『双魚』のディーバ、だろう」

「あら、ご名答ねえ?」


美しき、歪んだ、魔性の歌姫。





+ + + + +


【古い手紙】…差出人不明の、年季がはいった封書。

【《真を唱える者》】…恐らく少年を示す言葉だが、名前ではない。
[PR]
by SSS-in-Black | 2007-03-14 22:43 | 【100 title】

【100-31】悪魔

そこに、悪魔がいた。

それはしかし、どちらのことであろうか。

体が腹の辺りで真っ二つに折れ、激しく血を流しながら絶命している痩せた男か。

その血を剣から振り払い、周囲にある文字の書かれたものを物色しはじめた男か。

心の内に潜む悪魔は、悲しきかな、外面に姿を見せないものなのである。


「…これか」


戸棚の内から取り出した、かなり古びた一冊の記録書。

開けばまず目についたのが、あの少年の姿。

絵ではあったが、書き込まれた特徴は確かにそうだ。

名前は無い。無機質な識別番号なら並んでいたが、意味は無い。


「…で、商品名が『白無垢』ときたか。この大嘘吐きめが」


あのどこが無垢なんだ、と。

幼い頃から他人に汚され続けたら、白は堕ちてゆくに決まっているのに。

その証拠が、次に連なってゆく記帳。どうやら少年の『注文』履歴と報酬明細になっているようだ。

バラバラと捲るうち、これは何冊目かのものだと気づいた。日付が新しい、男に聞いた過去よりも。


「…何か、あればいいんだがな」


もう少し聞いてから、殺すべきだったか。

そんな取り返しのつかない失策に、レオンは溜め息をつく。

同時に五感が求めていたのは、あの少年を知るための情報。

またひとつ、冊子を込めた扉が暴かれてゆく。


だが、彼は知らない。

もうひとりの『悪魔』が、近づいてきている事実を。





+ + + + +


【悪魔】…人が必ず胸の内に飼っている魔性。荒んだ土地ならば、尚更大きく育つ。
[PR]
by SSS-in-Black | 2007-03-12 23:19 | 【100 title】

【100-30】天使

そこに、ある男がいたそうだ。


「貴族…ホーストンの人間か」

「ああ、こんな辺境にまでやってきた、お気楽なやつらさ」


聖ホーストン教皇国、フィラータの北方に存在する国。

その貴族といえば、確実に宗教関係者だ。

異端を嫌う、人のみを許す、宗教。


「そいつはまだ若僧でな、多分今も生きているはずさ。悔しいがな…奴と姉は、互いに惹かれあっていた。当然の結果だ、子供が生まれたことは」

「そして、生まれた子供は、すぐに独りとなってしまい、役立たずとなったため、売り払われた…?」

「…ある程度までは、俺が育てた。そう、九年前まで、だが」

「…売ったのか」

「ああ…この貧しい中、俺達も生き延びるためなら、何でもやる」


日々を生きてゆくだけの、糧。

糧を得るため、犠牲にされるのは、弱い存在。


「あれは高く売れた、その上、発生した利益の一部をこっちに回してくれて…今日はそれを、受け取りに」

「…で、俺に会っちまったわけか」


親のいない、名も力も無き、子供。

それはただ、金のためだけに。


「ああ、そうだとも──」


男はそうして、最後の言葉を吐く。


「あれは、俺達の『天使』だ」


嗚呼、最期だとも、露も知らずに。





+ + + + +


【聖ホーストン教皇国】…教皇による宗教国家、人間以外の種族を迫害する考えを持つ。

【天使】…少年の無限にも思われた犠牲は、金品となり貧しい一族を支えていた。それは、紛れもない事実である。
[PR]
by SSS-in-Black | 2007-03-12 22:50 | 【100 title】

【100-29】約束

そこに、ある真実があった。


「ひっ…だ、駄目だ、話せね」

「なら口を裂くぞ、喋らぬ口などただの飾りだ」


レオンの大剣が男の喉笛、その一寸手前まで迫る。


「この店には我々の反逆者がいた、だから殺したんだ。その際、店にいた者は皆逃げたが、ひとり、逃げない子供がいてな」


がちがちがちがち。


「その子供について、何か知っているか?」


噛み合わない歯と歯の隙間から、ひゅう、と漏れた声。


「ぎ、銀色の髪をした、子、なら」

「ああ、銀色の髪をした、線の細い子供だ」

「俺の、姉の、子供、だ」

「…何故こんな場所に?」

「い、一族の約束に、従っただけだ!」

「…一族の子供の体を売ることが、か?」

「ちっ、違う!」

「なら、何故」

「『真実の見えない子供は売りはらえ』っていう約束が、あるんだ」

「『真実の見えない』? …ならば、やはり」

「ああ! 俺もあの子供も、あの珍しく痛ましい『星薙の一族』さ!」

「…見えない、とは」

「へっ…俺達一族の持つ特殊な眼は、『親に名付けられ』ないと発現しないんだ」


ガン。

やわな壁が、貧弱な拳に、へこむ。


「母親、俺の姉は、あの子供を産んで──死んだ」


みしみしと、亀裂が生じる。

あんな体のどの部分から、こんな力が湧いてきているのだろうか。

やはり、想いか、憎しみや悲しみか。

男は不味い物を吐き出すかのように一言を床に叩き付ける。


「父親は、某国の貴族で、姉が妊娠したと分かるなり、消えた」


体面を、保つが故に。

そして、約束は下される。

小さな、弱い存在に向けて。





+ + + + +


【約束】…一族の繁栄のため、定められた掟。破れば、待つのは破滅のみ。
[PR]
by SSS-in-Black | 2007-01-21 18:58 | 【100 title】

【100-28】英雄

そこに、古びた扉があった。

その前に、小柄な男が立っている。

見るからに痩せているが、眼はぎらぎらと輝いて、異様な雰囲気をかもしだしていた。

彼はゆっくりと扉を開ける。まるでひとつ間違えれば壊れてしまうかのように、開ける。

その先に広がっていたのは、無惨にも荒らされた、否、中にいた全てが駆除されたかのような、空間。

人がいたようで、しかし何もいない。床に転がるのは、粗末な椅子や卓の残骸。


「何があったか、知りたいようだな」

「!」


男は即座に短剣を腰元より引き抜くと、声のした方へ向き直る。

そこにいたのは、壁にもたれかかる、無防備な男──レオン。

小柄な男は短剣を携え、突撃する、レオンの懐を狙って。

この距離なら外さない、逃れられない。防ぐことも、ままならないであろう。

鋭く細く、朝日に煌めく剣身が、軌跡を描き…


ガッ。


…不意に、消える。

レオンの前に、立ち塞がる、壁。

それはあの、扉程の大きさを持つ、剣。


「この剣は、普段はただの長剣。だがな、ある種の呪を唱える事により、外装…この分厚くて大きな剣身を呼び出すことができる、優れ物なんだ」

「ひっ…」

「さあ、むしろ知りたいのはこちらの方だ。この店は昨日、潰された」


まるで野菜を刻むかのように、めしりと、巨大剣は短剣を分割する。

軽々と剣を持ち上げ、短剣だったものの断片をはらはらと溢しながら、レオンは言った。


「あんたは何で、ここに来た?」


英雄の剣を、掲げながら。





+ + + + +


【小柄な男】…どうやらレオンの潰した店に何か関係があるらしい。異様に痩せているが、欲望にまみれてもいるようだ。

【ただの長剣】…そうはいえども、切味は抜群。外装を取りつける事で真価を発揮する。

【外装】…虚空から喚び出す召喚物のため、質量は見た目より遥かに少ない。巨大剣の剣身の部分。


進化する武器、みたいな。
『レオ・フラウダ・グレイズ』は、だから英雄の剣。
姿が変わる武器なんてないだろうし、なかなか。外装を召喚すると強力に、とか。
[PR]
by SSS-in-Black | 2007-01-14 00:57 | 【100 title】

【100-27】神秘

「あなた、は…カナデ、なのか?」


そこに、紛れもない記憶の人物がいた。


「カナデ…?」

「……すみません、よく知る人と、似ていたので」


似ていたのではない、同じ、だ。

メイザスの目の前にいる存在は、彼女と同じだ。

儚げで、しかしつやのある銀色の髪。

肌は上品な、どこか冷たさを秘めた白。

そして何よりも、無垢な硝子玉のような、瞳。

だが、彼女といくら似ていても、同じでも、違う。

現に、この子供は、少年だ。どんなに美しい顔立ちをしていても、少年だ。

メイザスの愛した、かの歌姫では、ないのだ。


「旅人さん…知ってるのかい、この少年のことを」

「…いえ、ただ、知人に似ていたので」

「そうか…可哀想な子でな、彼には名前も無いんだ」

「…だからですか」

「?」

「…名前が無いから、こんなにも無垢で、神秘的な眼をしているんです」


名前、それは、個としての誇り。

名のあるモノは皆、眼に特有の輝きや濁りをもっている。

それが全く、この少年の眼には、無いのだ。


「名前か…」

「親父、何か、手掛りとかは…」

「あったらとうに探ってるさ」


そして、レオンは。

夜が明けたらもう一度、あの忌まわしき場所へと赴く事を、決意した。

あの、悲しみと欲望と叫びと嘆きの入り混じった、店へ。





+ + + + +


【名前】…目には見えないが、全ての存在にとって欠かせない器官のひとつ。

【眼】…『目は口程に物を言う』とあるように、他人に意思を伝える大切な器官。
[PR]
by SSS-in-Black | 2007-01-13 23:51 | 【100 title】