小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

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【100-32】美貌

そこに、古い手紙が落ちた。


「…?」


黄ばんでいる、黄ばんだ頁と頁の合間に挟まれていた、封筒。

拾いあげれば、壊された封印の蝋、その残骸が辛うじて残っている。

中身も、やはり黄ばんではいたが、あった。

約三年前に書かれた記帳の、最後の辺りである。

その宛名は、

『《真を唱える者》へ』

と、見事な筆記体で流れるように書かれている。

恐らく、あの少年に対してのものであろう。こんなにも意味深な手紙が、偶然このような場所の最奥に紛れ込むことがあるだろうか?

…いや、ない。

そして、レオンの逞しい、悪く表現するならば太い指が、慎重に内容物を引き抜いた。

引き抜き、内容を──書面がいきなり、旋回する。


「!」


限り無く純粋なまでに精製された殺気。

瞬間移動してきたかのように、それは突如廃屋に発生、浸蝕を開始する。

レオンは剣を再び手に、手紙を乱暴に懐へとしまった。


「──おい、お前はどいつだ?」

「…?」

「この国にいる人間で、お前みたいなオーラを撒けるのは、数えるくらいしかいないだろうが」

「…」

「どうせ、お前は」


室内の影という影がずるずると蟲のように這いうねり、ある一点を目指し、突撃してゆく。

量は無い、その筈なのに、重なって、造る貌は──


「『双魚』のディーバ、だろう」

「あら、ご名答ねえ?」


美しき、歪んだ、魔性の歌姫。





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【古い手紙】…差出人不明の、年季がはいった封書。

【《真を唱える者》】…恐らく少年を示す言葉だが、名前ではない。
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by SSS-in-Black | 2007-03-14 22:43 | 【100 title】

【100-31】悪魔

そこに、悪魔がいた。

それはしかし、どちらのことであろうか。

体が腹の辺りで真っ二つに折れ、激しく血を流しながら絶命している痩せた男か。

その血を剣から振り払い、周囲にある文字の書かれたものを物色しはじめた男か。

心の内に潜む悪魔は、悲しきかな、外面に姿を見せないものなのである。


「…これか」


戸棚の内から取り出した、かなり古びた一冊の記録書。

開けばまず目についたのが、あの少年の姿。

絵ではあったが、書き込まれた特徴は確かにそうだ。

名前は無い。無機質な識別番号なら並んでいたが、意味は無い。


「…で、商品名が『白無垢』ときたか。この大嘘吐きめが」


あのどこが無垢なんだ、と。

幼い頃から他人に汚され続けたら、白は堕ちてゆくに決まっているのに。

その証拠が、次に連なってゆく記帳。どうやら少年の『注文』履歴と報酬明細になっているようだ。

バラバラと捲るうち、これは何冊目かのものだと気づいた。日付が新しい、男に聞いた過去よりも。


「…何か、あればいいんだがな」


もう少し聞いてから、殺すべきだったか。

そんな取り返しのつかない失策に、レオンは溜め息をつく。

同時に五感が求めていたのは、あの少年を知るための情報。

またひとつ、冊子を込めた扉が暴かれてゆく。


だが、彼は知らない。

もうひとりの『悪魔』が、近づいてきている事実を。





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【悪魔】…人が必ず胸の内に飼っている魔性。荒んだ土地ならば、尚更大きく育つ。
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by SSS-in-Black | 2007-03-12 23:19 | 【100 title】

【100-30】天使

そこに、ある男がいたそうだ。


「貴族…ホーストンの人間か」

「ああ、こんな辺境にまでやってきた、お気楽なやつらさ」


聖ホーストン教皇国、フィラータの北方に存在する国。

その貴族といえば、確実に宗教関係者だ。

異端を嫌う、人のみを許す、宗教。


「そいつはまだ若僧でな、多分今も生きているはずさ。悔しいがな…奴と姉は、互いに惹かれあっていた。当然の結果だ、子供が生まれたことは」

「そして、生まれた子供は、すぐに独りとなってしまい、役立たずとなったため、売り払われた…?」

「…ある程度までは、俺が育てた。そう、九年前まで、だが」

「…売ったのか」

「ああ…この貧しい中、俺達も生き延びるためなら、何でもやる」


日々を生きてゆくだけの、糧。

糧を得るため、犠牲にされるのは、弱い存在。


「あれは高く売れた、その上、発生した利益の一部をこっちに回してくれて…今日はそれを、受け取りに」

「…で、俺に会っちまったわけか」


親のいない、名も力も無き、子供。

それはただ、金のためだけに。


「ああ、そうだとも──」


男はそうして、最後の言葉を吐く。


「あれは、俺達の『天使』だ」


嗚呼、最期だとも、露も知らずに。





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【聖ホーストン教皇国】…教皇による宗教国家、人間以外の種族を迫害する考えを持つ。

【天使】…少年の無限にも思われた犠牲は、金品となり貧しい一族を支えていた。それは、紛れもない事実である。
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by SSS-in-Black | 2007-03-12 22:50 | 【100 title】