小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

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学校、と、七。
この組み合わせが導くものは、恐らく、一つしかない。

「というわけで、七不思議がこの学園にはある」

学園寮長がくそ真面目に切り出した話はまさに其れであった。
時は四月、入学式、桜の季節。
何ともまた物騒で、ついでに常識から逸した切り出し方である。
彼女はなんだそりゃと思いながら、しかし話はきっちりと聞いていた。
…が、何せ固有人名の多いこと多いこと。カタカナ語は苦手である。
そんな部分をきっちりカバーして、入学して最初に出来た友人は、何故かメモを取っていた。
そこに歴史の好きな、ちょっとデキる男子生徒が、注釈を加えた。
そうしてこのメモが出来たのである。いわば、この学園に来て始めて手に入れた知識。
大切に保存していた紙切れを手に、彼女は三年の時を経て、かつてのあの場所へと上る。
使命だとか予定だとかは信じていない。世界は信じがたい出来事に満ちている。
だが、三年の内に彼女はいつかの先輩となり、寮長となった。
これを運命といわず、なんと言うべきなのであろう。
開けた講堂の、目の前には、かつての自分。
小さめの深呼吸、第一印象は強く、そして深く、刻んでやろう。
あの、いつかの入学式のように。

「つーことで、学園七不思議が実在しているこの学園へ、ようこそ」





「『空蝶学園七不思議』…
 
 一、雇ってもいない警備員達が徘徊する『第三校舎の夜警』
 二、中庭に忽然と現れては消える少女『中庭のエミール』
 三、ホルマリン標本を養分に芽吹いて咲き誇る『理科室の悪の華』
 四、一度間違えて上がると戻れなくなる『バベルの無限階段』
 五、真夜中の学生寮を駆け回り小火を起こす『ガイの灯火』
 六、音楽室の鏡を深夜に見ると歌う少女の霊が映る『キャロルの姿見』
 七、森に悪戯をすると数日後に犯人を襲う『森の主ジェヴォーダン』

 …この伝説名それぞれは、史実に基づくあてつけなんだっていうけど…」

数年前と同じく、メモをとっていた新入生がいたようだ。
講堂からの帰り道、それを回し読みしながら男子生徒達の一団が口々に意見を交わす。

「まず七不思議が実在するから気をつけろってのが高校らしくないよな、まったく」
「でも、そうだったらこんなに細かい情報があると思う?」
「でっちあげだろどーせ」
「いや…でっちあげにしては、本気すぎるよ」

個人所有のメモが帰ってきて、楠洋輔は考察を述べた。

「例えばこの二番目『中庭のエミール』。
 『エミール』っていうのはきっと少女の名前だろうね。
 でも、少女でエミールといったら…ジャン・ジャック・ルソーの著作に出てくる人物になる。
 まあ、そのエミールのことを示しているかは怪しいけどね。
 
 別に『花子』でもいいはずの名前だよ、実際『トイレの花子さん』だっているわけだし。
 他にも『バベル』はきっと創世記の『バベルの塔』からきてるだろうし…。
 
 何が言いたいかって、モチーフに西洋を連想させるものが多用されてるって事。
 ここはミッション系でもなければ、留学生が多いわけでもない。じゃあ、何故こうなった?」

確かにそうだ、と疑っていた小峰柳は思う。思うのだが、エミールなりルソーなりという難しい話はさっぱり分からない。バベルは少し前の映画で騒ぎにもなったあれだろうか…。
メモを回想してみれば、カタカナ語は多い。『エミール』『バベル』『ガイ』『キャロル』『ジェヴォーダン』。
ところがそこでひっかかるのは、それらのない二つだ。彼がそれを言わんとしたときには、既に隣を歩いていた相原大地が疑問を口にしていた。

「…たしかに。ちょっとこのあたりは難しいかも…」
「もしかしたら、何かの日本語訳なのかも知れないよ?」

新しい方針を示したのは鳩場葵だ。大地は随分前から抱いていたのだが、この少年、可愛い顔して考えることは妙に鋭いのである。
下手をすれば女の子にも見えて、実際に初対面時にはそう認識してしまったものだ。
葵には、二番目の成績で入学を果たした洋輔には無い知性というものが宿っている様子。

「日本語に訳せば、何でも有りだもんな。それにカタカナ語の奴は、どう見たって訳せるもんじゃないし…葵の言うとおりかも」
「ありがとう、大地君」

にっこり。
入学式の直後だというのに、ここまで仲が良いというのは、この学校の特殊さが一因となっている。
そう、寮の存在だ。
遠方より来る、或いは家から近くとも志望すれば、寮での生活が可能となる。
入居の開始は四月の二日から…つまり、入学式に至るまでの数日で、早くも友人が出来得るのである…同性に偏りがちではあるが。
男女別の寮で、共有するのは食堂と談話室。だがそれも昨日までの話。
学園生活で、最も多くの時間を費やすであろう場所――彼らの教室が、もう、目の前にあった。
一年A組、生徒数は二十五人。隣にはB組とC組、人数はそれぞれ二十五の十五。
計六十五人が、今年度の新入生である。

「じゃあまたあとでな、洋輔、葵」
「おう」
「そっちも頑張ってねー」

奥にあるB組へと入っていく二人を見送る、A組の柳と大地。
各学年、AB組は通常学級で、C組は芸術専攻という一風変わった編成になっている。
専門学校と通常高校とが融合した、それがこの学園の特徴の一つだ。

「そういやC組に知り合い居ないな、おれたち」
「そうだね…まあ、仕方ないというば仕方ないのかな? 絶対数が少ないしね」

机の配置は名簿順、二人はたまたま隣り合わせ。
四人の列が五本、五人の列が一本、二十足す五で二十五人、さらに担任で二十六人。
それで机は、教卓も含めて、完全のハズであった、が。

「柳」
「うぎゃっ!? …な、仲井か、びっくりさせるなよ」
「これしきのことでびっくりする方がどうかしてるわ」

いや、どうかしてるのは仲井さんの方だよ、と大地は突っこみたくなった。
彼女の手には、マジックハンド。びょいーんと伸びた指先が柳の肩を叩いたのである。
仲井水城、一見すればただの変な少女だが、それは天才肌の変形したもの。
洋輔を抜いてトップの成績で入学した、秀才である。
初対面時も食堂で、柳は彼女に落とした財布を拾ってもらっている。
結果、それがこの頭の上がらない関係を構築したわけだが。

「この教室、机が二十六個在るわよ」
「? 教卓含めてだろ?」
「数えてみれば分かるわ」
「…本当だ、二十六個、ある」
「大地、数えるのはやいな…ひいふうみい…」
「…大地、この可哀想な子は本当に高校生なのかしら?」
「さあ…ここまで馬鹿だとは…」

思ってもいませんでした。
一見すれば分かる話なのだ、机が二十六個ならば。
一番窓際の列、そこにぽつんと一個在ればいい机が、二つ並んでいる。
四人の列が四本、五人の列が二本、十六足す十で二十六。
ようやく数えるという原始的な手段で状況を把握した柳が、げっそりしていた。

「話が違うじゃねえか…ったく、さっきの入学式には二十五人しかいなかったぞ?」

A組の生徒が座っていたのは、五かける五のスペース、イコール二十五脚。
この間に増えた一人は、何者なのか?

「ちなみにB組の沼田君と、C組の雛菊ちゃんに聞いたけど、人数はきっちり守られていたわ」
「B組の沼田…ああ、あのアホの沼田か」
「柳…いや、なんでもない」
「大地、痛いほど分かるわ、その気持ち。でも今は保留で」

言える権利が無いことを示そうかと思いつつ、踏みとどまっておく。
柳は知らない、沼田竜馬という男がアホなら、小峰柳は馬鹿であると、早速言われているのを。
そして早速その二人を利用しているのが、仲井水城という女主人であると。
その関係図を恐ろしいと感じながら、大地は聞き慣れぬ名前に疑問符を浮かべた。

「雛菊ちゃんって、ダレ?」
「ああ、綿池雛菊。知っているはずよ、いつか食堂に来たとき鳥がひっついてきてた彼女」
「…納得、あの野生児か。けど、C組って…」
「人は見かけによらないわよ、柳。あんたみたいな外見に内容が伴ってるならまだしも」

ここで柳が大地にこっそり「褒められてる?」と聞いたことは秘密である。

「彼女はバイオリニスト。この若さで頭角を現しつつある、C組唯一の特待生扱いよ。…柳、驚きすぎ」
「いや、あいつがバイオリンとか、え、似合わな…」
「遅れてすみません、それでは着席をお願いしまーす」

柳のその失礼な発言を上書きするように。
一年A組の担任が、がらりと教室前方の扉より入ってきた。
着席しようと話を切り上げて移動する、その背中を再び水城につつかれる。

「柳、大地」
「?」
「おい、席に着かせろよ…」

振り返るとそこには、マジックハンドが一枚のメモを掴んでいた。
びよびよと揺れながら、読み取った文字には。

『ろうか』

急いだ雑な文字で、いや、雑ではなくこれが彼女本来の文字なのかもしれないが。
二人が、開け放たれたドアから覗く廊下を見て、そこには――。





時間は少し、遡り。
宮藤亜梨奈は、校長室にいた。
もし彼女が古き良き初代某変身ライダーものを知っていたら、まるでそのボスから指令を受け取る場所のように思えたであろう。当たり前だがそんなこと、彼女はつゆ知らずなわけだが。
確かに部屋なのだ、校長室なのだ。
飾られたトロフィ、整えられた仕事道具、『校長』のプレートが踊る机。
しかしその柔らかそうな椅子には、誰も座っていなかった。
代わりに背後には、鷲の紋章ならぬ蝶々の紋章がある。
亜梨奈はすぐに気づいた、それがこの学園の校章を模したものであると。ただしその壁のものは色とりどりの硝子が填められ、ステンドグラス状になっていた。
キラキラと降る色彩に目を奪われるうち、彼女は知らず知らず、返事をしていた。

「…って、え…?」
「ああ、すまないすまない。このような形でしか会えなくて、申し訳ない」

『声』は、ステンドグラスの向こう側から聞こえてきた。
よくよく見れば、ゆらゆらと何かが揺れている。明かり…それもロウソクか何かの、ゆらゆらとした光源。
だからまばらに色彩は降り積もるのだ。安定せずに、それ故に美しい。

「驚かせてしまったから、改めて。…私が校長の、兒珠だ。宮藤さん、ようこそ空蝶学園へ」

そうだった。
彼女自身は、地元の公立高校に進学する予定だったのだ。
ところがいきなり、空蝶学園への入学書類が届いたのであった。
何かと思って遠方の父に問い合わせたのだが、明確な答えはなかった。
つまりは「来い」と、暗に示しているのだ。
それだけではない。
彼女に進学を決意させた原因は、もうひとつ、あった。

休日。
買い物に出ていた亜梨奈は、自分のせいではないのだが、柄の悪い男に絡まれてしまった。
ちょっとぶつかってしまった、むしろぶつかってきたのは向こうだ。今時流行るかというコメントの入りそうな、しかし怖いことは怖い出来事。
その窮地から彼女を救ってくれた人物が、空蝶学園の関係者だったようなのだ。
青年の落とした封筒に気づき、後を追ったものの、彼を見失う。

もしかしたら内部の関係者ではなく、父兄や業者だったのかもしれない。
が、彼女は花言葉や星占いに何かを感じる、運命を信じる少女である。
これも、何かの、縁なのだと。

「君の入学に関しては、ノーコメントでお願いしたい。
 …突然書類が届いて、どんなドッキリだって思ったでしょう? 大丈夫。
 その書類とこの権利は、君に送られるべくして送られた、そういうものなんだ。
 だから不安とかはまったくいらない、君のお父さんも了承してくれた」
「…はい」
「まあ、アプローチが遅かったせいで編入生扱いになってしまったが…
 君は今日から、この瞬間から、当校の一年A組の生徒として過ごしてもらう」

姿は見えないが、若々しいイメージのある語り口調。
むしろどこか子供っぽさを残して、一方で性別は判別しがたかった。
声は恐らく、変声機か何かを通しているのだろう。中性的な、落ち着いた声質だ。
それらが混ぜ合わさって、独特の雰囲気を醸し出している。それが亜梨奈の、校長に対して抱いたイメージのはじまりであった。

「さて、そろそろ最初のホームルームが始まる…入りたまえ、多能君」
「失礼します」

背後で、扉が開いた。
隙間から、逆光の中で、小さく微笑んでいる。
…既視感が、彼女を捉えて、現実を紡ぎ出す。

「驚きましたよ、写真を見て」

後ろ手に閉める豪奢なステンドグラスの填められたドア。
校長はどうやら、蝶々が好きなようだ。花畑を舞い遊ぶ、幻想の群れ。
それは青年の背後にあり、彼を鮮やかに形容、修飾していた。

「はじめまして…じゃ、ないんですよね。お久しぶりです、宮藤さん」

こんなにも早く、糸が巻き戻ってしまうとは。
亜梨奈は呆然としたまま、脳裏を真っ白に染める。

「…宮藤さん、彼が君の担任の、多能迅先生だ」





七不思議の語られる入学式。
脈絡のない転入生。
人前に姿を晒さない校長。
――偶然か運命か、全ての行方は、まだまだわからない。





□楠洋輔/クスノキヨウスケ [1B]
…どちらかといえばワイズの方面で頭が良いロジカルな存在。

□小峰柳/コミネヤナギ [1A]
…馬鹿呼ばわりされてますが体力でそれをカバーしている様子。

□相原大地/アイハラダイチ [1A]
…意外と思慮深いのだがそれが災いして振り回されがちな体質。

□鳩場葵/ハトバアオイ [1B]
…外見の可愛いらしさとは裏腹に鋭い視点で物事を把握している。

□仲井水城/ナカイミズキ [1A]
…マジックハンドと勝手に下僕を駆使するインテリジェンスな秀才。

□沼田竜馬/ヌマタタツマ [1B]
…アホらしいですが詳細は本人登場時にもう一度。

□綿池雛菊/ワタイケヒナギク [1C]
…特待レベルでバイオリンを弾く一方で動物に懐かれる野生児。

□宮藤亜梨奈/ミヤフジアリナ [1A]
…理由も知らずいきなりこの学校に来ることになってしまった謎の少女。

□多能迅/オオノジン
…かつて亜梨奈を助けた青年であり1Aの担任を務めることとなる。





あんまりギャグになりませんでしたが。
此処まで来ると趣味の領域となってきます。
しかし七不思議って難しい…兎に角今回は一年だらけのお話でした。

水城が勝手に喋ってくれるんですが何故でしょうかね? つかこんな子じゃなかったはず…。
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by SSS-in-Black | 2007-12-27 16:10 | 【School】
これは、むかし、むかしのおはなし。

あるところに、小さな森と、小さなおやしろがありました。
それは村はずれにあったため、足を運ぶ人も少ない、さびれたおやしろでした。
だから、そのおやしろが風と雨でたおれてしまい、雷で焼けてしまっても、しばらくは気のつく人がいませんでした。

もちろん、そこにまつられていた神様は、かんかんにおこってしまいました。
そこで神様は、森を広げて村をすっかり草木でおおいつくしてしまいました。
そしてその森に、人のせかいにはいない、神様のせかいの生きものを住まわせました。
その生きものはときおり森をぬけだし、ちかくの村をおそいました。
ある時は畑に火をつけ、ある時は家をあらし、ある時は子供をさらう。
それに困った村人は、神様にゆるしをこいましたが、そのすべてがむだに終わりました。

そんなこんなで十年の月日がたち、ある時、ひとりの女の子が言いました。
「わたしが神様に話をしてきます」
その子が歩き出すと、ふしぎなことに、今まであばれていた生きものたちが大人しくなり、森へのみちをあけました。
森の中は暗く、足元も悪かったのですが、やはりその子が通ろうとすると光がさしこみ、道にはやわらかな枯れ葉がつもりました。
やがて女の子はこわれたおやしろにたどりつき、それをなおすと言いました。
「神様、どうかわたしたちのつみをおゆるしください」
するとみるみるうちに、広がった森におおわれた村は元通りになり、神様のせかいの生きものたちも空へかえっていきました。
きげんをなおした神様は、女の子に七つのたからものをわたすと、おやしろの中に消えていきました。

それからというもの、その小さな森と小さなおやしろは、きちんと人の手によって守られていったそうです。

これは、むかし、むかしのおはなし。





「でも実際は、この森に残ってしまった『神様のせかいの生きもの』がいて、それが相変わらずの悪行狼藉の限りを尽くす…ということでして」

殺風景なログハウスに、テーブルがひとつ、カップがふたつ、チェアがみっつ。
人間はふたり、瞳はよっつ…色は、黒と赤がそれぞれ一対ずつ。
黒い瞳は純粋な闇の色ではなく、蜜の色をしたライトが当たると小さな変化を起こすような色。
まるで、その窓から見える、深い森のような色。

「私は『おやしろを守る人』の末裔で、あなたもそう。そして、この施設の持ち主もそう。…皆、末裔なのです」
「…随分と、毛色の違う末裔同士に見えますけど」

森の瞳の少女がさえずる。
口をつけたココアから、まだ弱々しく立ち上る湯気。
本来ならば柔らかく、優しく可愛らしい様子も、だが何かがおかしい。
少女は森、その中に潜む影…獣の気配をそこはかとなくあたりに漂わせていた。

「…。
 中からの力を封じる『兒珠』。
 外からの力を抑える『古閑』。
 最後に社へつかえる『御仕』。
 …唯一、我が御仕家は武道派ではありませんから、確かにそうとも見えますね」

再認識と、再確認。
青年はその年に似合わぬ白髪頭を軽く掻き上げ、合間から覗いた指は細く痩せて。
戦わせたらまず負ける以前の話だが、対する少女もまた小柄中の小柄。床に足が、まるでついていない。
だがその力は、外から推し測れるものではなく、中から湧いてくるもののように…自信が、そこにはあった。

「古閑静火さん、でよろしいんですよね?」
「はい、静火です、御仕さん」
「ああ、私のことは澄でいいよ。…で、あとはこの場にいないけれども、兒珠校長。この三人の『守護者』が揃ったのには、ちゃんとした意味がある」

かたり、カップが置かれた音。
染み入るような静けさに、運命は紡がれてゆく。
それが目に見えないことを祈り、喜ぶことしか、できないとしても。
それは恐ろしいほど正確に、精密に、ひとつの文様を描いて編まれてゆく。


「『女の子』が受け取った『七つのたから』。
 その宝が形を変えて、やはり形の変わった少女の手へと、渡る。
 それが誰かも、未だまったくわからない、けれども…
 『神様のせかいの生きもの』の残党と、真っ正面から潰し合いができるようになって、うまくいけば、我々の使命も果たせる」


長いながい、争いと傷跡の歴史。
澄は一息に語る、その血に流れる時の流れを。
神に呪われた土地を守り、そのことで繋がり続けた、悲しい伝統。
それを、終わらせる。

「…確証は、あるみたいですね」
「勿論。兒珠家は流石、やることが派手で嬉しいですよ」

何故なら。
『学園』という、最強の隠れ蓑を準備していたのだから。
そこでは、どんな人物が居ようとも、どんな事象が起ころうとも、全てが、否定を許さない。
全てが繋がり、分かち合う。

「さて、そろそろ始業式がはじまりますよ…『空蝶学園』の、伝説のはじまりが」

今、ここに。
歴史書は白紙の頁に、新たなる文字を、刻み始めた。





□御仕澄/ミツカスミ
…白髪赤目、『社』を守る『召』の一族の末裔。

□古閑静火/コガシズカ
…黒髪緑目、『社』を守る『矛』の一族の末裔。

□兒珠―/コダマ―
…外見不明、『社』を守る『盾』の一族の末裔。





なんだかんだでしょっぱなだけシリアスに。
これからギャグになる、間違いなく、ギャグになる予定。
たまにシリアスなりオカルトなりいれながら、ちまちま書いてきますねー。

初回はとりあえずオリジナルの嵐でした。
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by SSS-in-Black | 2007-12-17 21:38 | 【School】
放課後の教室。
その系統は、大きく二つに分けられる。
ひとつは、とにかくうるさい。何らかの形で集会が開かれているパターン。
もうひとつは、沈黙。ただしこれには細かく、まずは二つのパターンがあり、そこから更に分かれていく。
まずは、人がいないが故、当然ながら静かであるという状況。一方では、人がいてそれでいて静かだという現象。
後者は更に、いる人間の関係が平行線上にあるのか、あるいは直行に交わっているからこそなのか、と分類される。
――そしてその、一番部外者にとっては厄介な種類の沈黙が、その教室にはあった。


【静かなる殺意の公式】


「というわけで入れないな、こりゃ」
「あちゃー…なんでこういう時に限って譜面忘れたんだろ…」

ホームルーム教室、後方ドアの前。
二人の女子生徒が、内部が見えるよう填められた縦長のガラス窓より、静かな教室を眺めていた。
話す声は珍しく、極端なまでの小声。こそこそこそこそ、端から見ればただの怪しい人である、が、奇人変人だらけのこの学園において、この程度ではさほど目立たないのもまた別種の問題である。
確実に言えることはといえば、灸と縁、内部では当校きっての巨大勢力、その筆頭として名を轟かせている二人の女傑が、どこまでも困り果てているということである。

「これで入ったら空気読めないただのバカよね、あたしたち」
「カズなら許されるかもしんねーけど、生憎、こういう時に限っていねーしな」
「空気を読んで逃げたのか…或いは、空気を読めずにいないのか」

愛用パシリの不在を嘆く、嘆いていないように見えるがこれはれっきとした嘆きである、彼女らにとっては。
仕方なく廊下に立ち尽くし、灸は軽くへたりこみ、それは一体どこの不良だと言いたくなるような体勢で。

「お、灸…って、またかよこの状況」

返事する気力もねーんだよまったく、と言いたげな瞳を受け止めたのは、どうやら食堂帰りらしい紫兎。
横では斗粋が早速暇つぶしの用意にとりかかっており、相変わらず順応性の高い奴だと周囲に思わせずにはいられなかった。

「おい、そのポテト一本よこせ」
「あ、あたしにもー」
「…誰がやるか」

不機嫌は感染する。
その原因、根本はさてどうしたかといえば、縁がこっそり覗くに相変わらずの様子。
否、その顔が表すのは、明らかなる。

「…甘すぎて逆に耐えきれない…」
「…ご愁傷様です」

そう言いつつも、手には美しく研ぎ澄まされたメスが一本、二本、三本。

「斗粋、あの二人を」
「殺れって言われても、僕らもう十六は過ぎたんだから、下手に警察沙汰起こせないんだってば」
「そうですよねー。こちらにも火の粉が降りかかりますしねえ」

癖のある話し声、まるで何かの押し売りというか、とにかく怪しくしかしその奥に真相が隠れてるのではないかと疑いたくなる声。
ちなみに疑いたくなるのみで、実際はただ単に胡散臭いだけである、というのが実際である、という検証はさておき。

「あ、変態仮面」
「斉田さん、せめて『さん』をつけてくれないかな、『変態仮面さん』って」
「変態公認かよ」

冷静な灸。
現れたのは、国語科の若き新星にして変態四天王の一人と数えられている教師、勘解由小路八雲。
かでのこうじやくも、と初対面で名をきっちり読めた人は今まで数える程しか会ったことがない、という名前までも胡散臭い男だ。
しかし何が一番胡散臭いかといえば、その顔に常時装着されている仮面の存在であろうか。この由来がまた、無駄に長い。

「一ノ瀬さん、廊下では座り込まないでくださいね。まあ気持ちはわからなくもありませんが」
「だったら教室をなんとかして開放してくれ」
「いや、流石に僕もそれは…あの二人の逢瀬を邪魔したら呪われそうで」
「逢瀬って、どちらかといえばこっそりやるものですよね」

それは尤もである。
思わず頷き、そこで発言主に気づいた縁。

「あ、絢女ちゃん。ゴメンね、こっちまで来させちゃって…」
「いいのいいの。だって縁ちゃんがあまりにも遅いから、何かあったんだろうな、って」
「うん、まさに何かあってさ…恭臣君とかにも迷惑かけちゃって、マジゴメン」
「平気へいき。刹那君も真訪君も、あの三人は三人で練習はじめてるから」

恭臣、そして刹那と真訪。
三人が結成しているのは、学園内人気ナンバーワンのバンド『オーヴァー・ザ・レッドムーン』、略称『アカツキ』。
様々な路線のカバーやコピーから、代表曲となった『紅の月を超えて』といったオリジナルナンバーまで、その演奏は幅広く深いものとなっている。
そんな彼らと、縁、絢女らとのコラボレーションユニットが『4696』――シロクロ、である。
縁は元を辿れば、その譜面を取りにここまで戻ってきたのであった。

「で、入れそうなの?」
「いや、入ったら軽く失神どころじゃねーかもなこりゃ」
「若いですねえ、彼らも」
「いや、あんたも若いでしょ仮面サン」

紫兎の華麗なる突っ込み。

「いやいや、そういった若さではなくって、また別のわ」
「もう、だからわかんないって言ってるじゃん! ばかばかばかっ!」

そして華麗なる割り込み、こちらに向かってくる騒音。
思わず耳をそばだて、あいつらか、と落胆を隠しきれない一同。

「だからここは階差数列になるんだってさっき書いただろ…」
「でも腑に落ちないの、いまひとつよくわかんないのー!」
「じゃあ教室でまた…って、あれ?」
「…ウルサいぞそこの夫婦」

鏡介と風歌、その組み合わせとくれば、この学年の夫婦として有名なカップルである。
鏡介の手には山のようなコピー、対する風歌は問題冊子をぺらりと一冊。
どうも科目は、嫌でもわかるが数学らしい。

「…誰かコイツを止めてくれ…」
「それが旦那の役目じゃないのか?」
「ううん灸、それは酷ってものだと思うんだ」

二人のあとからついてきた、眼鏡っ娘の名をほしいままにしている蘭の言う通り、ただでさえ猫背で屈んだ鏡介が、また更に縮こまってしまっている。
この夫婦には、ご覧の通り果てしなく辛い主従ともとれる関係がつきまとっているのだ。

「とりあえずまずは真っ直ぐ立ってみない、鏡介君」
「まあ、これもまた愛ってやつですね」
「あ、仮面さんだー…数学はできませんよね」
「残念ながら。…でもまあ、まだ公式や方程式を駆使すれば解けるのだからよいのでは?」
「?」

意味深な発言。
いつの間にか高まりつつある廊下の人口密度に反比例するような静けさ。

「世界には――やや使い古された表現ではありますが――、公式では解けないことが、たくさんあるんですよ」

たとえば、と前置きをして遠くに声を投げかける。

「雨原君、因数分解では解ききれない二次方程式の解を出すには?」

遠くと近くの中間地点、階段を上がってきた雨原改閃と、隣には鳴滝紅乃。
この二人もまたつきあっており、やはりどちらかといえば妻の主導権が強かったりするのだが、それはさておき。

「…解の公式、ですか?」
「ご名答。…じゃあ紅乃君、ある二人の関係を導き出す公式は?」
「…? …ありますか、そんなの」
「うん、ない。だから言ったでしょう、公式で解けないこともあるって
「…しかも、難しいこと、多い」

ゆっくりと、改閃の背後からやってきた銀太。
寡黙である一方、犬の顔を模した帽子をしかも日替わりでかぶっているあたりに何か和み要素を感じる、そんな人物。
ちなみに今日の犬種は、黒パグである。

「そう。だから人の世界は数学の世界と違って答えもでないし、イコールで繋いだり置き換えたりができない」
「うん…確かに」
「で、時にこじれたり、修復が利かなくなったり…難しくて、私でもよくわからないことだらけですよ」

語るかたる、それは真理かあるいは偽り。
わかるようでわからない、言葉の魔術にしかし理解は示される。

「まともな変態仮面も珍しいよね」

ぼそりと縁が。

「槍が降るな、今夜から」

不吉な文句で返す灸に。

「何故、天祢先生は私の愛に答えてくれないのでしょうか…」

前言撤回。
やっぱり仮面は変態だ。

「ありゃ愛っていうかストーキングだろ」
「犯罪ですね」
「というより、仮面さんは存在自体が犯罪だから…」

本人に聞こえていても気にしない、これもまたルール。
仮面は天祢先生、同年代の同僚教員にベタ惚れで、という話は最近有名になりつつある話である。
天祢先生自体は彼を毛嫌いしており、しかしその裏ではツンデレ説やもうデキちゃってるけど恥ずかしい説等も流布している。
一貫して言えるのは、とにかく仮面は変態だという誤魔化しようのない事実だ。

「嗚呼っ天祢先生、今日もまた麗しい…!」
「なにっ、天祢先生だとっ!」

噂をすれば影、悪魔の話をすればなんとやら。
階段から下りてきて、半ば追われるように逃げてくる天祢と、追っ手の向緋。
手にはトレードマークと最早化した深紅の薔薇を、変態四天王二人目は駆けてくる。
それを迎え討つ…変態同士の嫌な戦いである。

「…はじまった」

表情も変えず、銀太が。
はじまってほしくないものが、廊下に広がってゆく。

「おお! 皆さんお揃いで、さあ薔薇をどうぞ一輪!」
「だが断る!」

立ち上がる反動を利用しての、灸の拳がクリティカルヒット。
女性と会うと薔薇を配るという奇行に、一部の例外を除いて女子はかなり悩み、むしろもう少し歪んだ気持ちまで抱いている。

「わーい薔薇ーっ!」
「風歌…」

で、その例外が、風歌。彼女の好きな花は薔薇である。
その隣で、旦那の背が、またもやへにゃりと折れていく…見ていられない程に。
しかし好きだからとはいえ、気絶した手からもぎ取るというのも、いや、強い。

「さあ天祢先生、怖かったら私の胸に」
「遠慮しておきます!」

変態につきまとわれ、ここにも可哀想な人が。
美人とは何かと苦しい目、辛い目に逢ってしまうのである。

「まったく照れちゃってほんと可愛いなー」
「うっ、うるさい!」

そしてどこからか、巨大なハリセンを取りだし、振り上げた瞬間。

「おい、うるさいから静かにしろ、廊下」

紅乃の隣で、開かずの、開けずの扉が、内側から開いた。
顔を出したのは――青吾。その脇にはしいながちまっと控えている。
即ち、教室内をあの憎いまでの静寂に満たしていた、二人。
則ち、噂の甘々バカップル。

「…」

この沈黙に、一瞬の張りつめた気配に。
もし、名を与え、この世の理と認めるならば。
誰もがこんな、行き過ぎた恋や愛といったものを、その影響を、結果を、公式化してしまうのだろう。
『静かなる殺意の公式』、と。







むしゃくしゃしてやった。
別名、三年を整理してみたよ企画。

…て、抜けてないよなさすがに、泣くぞ私…。
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by SSS-in-Black | 2007-12-12 21:14 | 【School】