小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

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「失礼します」

がらがらがら。
若干立て付けの悪い生徒会室の扉を開いて、そこに広がっていたのは、どう見ても出来の悪い冗談であった。

「いあ! いあ! くとぅるふ・ふたぐん!」
「きゃー! 窓に、窓にーっ!」
「…」

やばい、絶対来る場所間違えた。
ちょっと隣の教室を覗いてみよう…と、その足首に、ずっしりとした重み。
何かに掴まれている、がっしりと。

「おい、やめろよ!」

只でさえカオスな生徒会室内部。
そのなら滲み出てきて、足首を掴んだのは…奇蹄目ウマ科ウマ属ロバ亜種の手。
一応手の位置にあるから手だと思っているだけで、あまり彼らの手足は変わらないのだが。

「…お前か、カズ」
「ひいーん…助けてよバ会長…」

学園副寮長の、『みんなのパシリ』カズこと美並一希と、生徒会長の、バ会長こと八神刹那。
ちょっと可哀想な二人が対面したものの、むしろギャグにしか見えないのは何故だろうか。
とりあえず刹那が、一言。

「…助けて貰う相手にその呼びかけはなんじゃないか?」

こうして、第一回空蝶学園創立五十周年式典委員会はあまり無事ではない幕開けを迎えた。





セッティングされた円卓の中央に展開していた魔法陣を片付けた後、会議は開始された。
議長は委員長に大抜擢された女傑、斉多縁その人である。

「では、色々ありましたがはじめましょうか」

本当に色々あった、いろいろ。まったくシメたろうかあいつら、片方は教員だけどさ。
声にならない思考が、それでも読めてしまう人間には読めてしまうのである、その表情の変遷が。
書記の大河内真訪は、そんな彼女を諫めるようにまあまあと、苦笑気味にため息を漏らす。

「自己紹介がまずは必要じゃないかな、斉多さん」
「そうね…とはいっても、殆ど見知ったようなメンバーだけど」

高校三年生、三年目の仲間。
午前中の始業式、そして午後は会議と同時進行中の入学式。
春爛漫、満々である。

「じゃあ、どうせなら次回に回さない? 下の学年が来るのは次からだろ?」
「そうねえ…コーラ王子の意見に反対の人、いるー?」
「コ、コーラ王子…」

妙にフレンドリーな円卓の騎士達である。
コーラ王子こと千歳恭臣、頼りがいがあって禁欲的な好青年だがコーラには滅法弱い。
むしろ、三時間に一度コーラを補給しないと、とんでもないことになる…とは本人の言。
一体何が発生するかは不明だが、そこを敢えて詮索しないのもまた仲がよいからなのだろうか。

「否定意見はなさそうね。
 じゃあ、早速。…この委員会の目的やら何やらを、もう一度話すよ」

配布された資料を見て、と縁が。
B5サイズの、左上をホチキスで留めた三枚組の些細なパンフレット。
白黒印刷の唯一の例外、及び異彩を放つ点はと言えば、右肩に押された、

『極秘』

の印章。手押しなのであろう、インクが少しばかり掠れてしまっている。
それがかえって、その冊子の重みを読者に実感させていた。

「まずは表向きな話からね。
 
 この学校、空蝶学園は、今年創立五十周年を迎えるのはご存じの通り。
 そこで、どうせだから記念に何かやらない? ってオファーが校長先生から来てね。
 
 内容は自由。だからこんなぼかした名称なんだけどね。
 構成員や組織のやり方も勝手にやっていいっていう許可が出たわ。
 だから、委員会というよりは部活や同好会に近い感じね。
 
 別にお祭り騒ぎをしても良いし、なにか大きいものを遺しても良いし。
 このあたりの内容はこれから決めていくから、アイディアよろしく」

ぴしっ、と人差し指とウィンクのコンボでキメてみる。
しかし、こういった時ほど見ている人間は少ないわけだが。最早お約束の一歩手前である。
何よりもかによりも、騎士達の気になるものとは、求めるものとは、その奥にあるもの。
色彩を徐々に変化させながら、誰一人同じ色を持たない、瞳。
その奥に炯々と潜む光だけが、例外の権利を、しっかりと握りしめて。
真実を欲している、偽りに満ちたこの『世界』の内に。

「…じゃあ、ここからが、本番ね」

縁がそう言って、次の頁を見るようにと、指示を飛ばそうと。
そしてその指示がなくとも、意図を酌んで頁を捲るために指先を動かそうと。
次の行動は、果たして誰も、取ることが出来なかった。
窓が割れたのだ。

「!?」

窓の一番近くに座っていたのは、なかなかに背の高い、白黒はっきりとした顔立ちをした男子生徒。
さっと立ち上がろうとし、間に合わず椅子を巻き込みながらも避けたのは大正解である。
それは、そのまま円卓に突っこんできた。
さながら人間ロケット、あるいはまったく逆の物体。
真っ先に口を開いたのは、他でもない、泥と腐葉土にまみれた人物であった。

「誰か早く! 保健の先生呼んでっ!」





「なに、ちょっとした切り傷よ。我慢なさい、少年」

その割には容赦なく消毒液を塗ったくっている、白衣の天使。
保健室はある種のオアシスだという人種がこの世には存在するが、この保健室は少なくともその対象外となるであろう。
むしろここは理科室ですか? と訊きたくなるような道具の数々が、あちらこちらに陳列されている。
…入学初日から、小峰柳はこの空間に足を踏み入れる次第となってしまった。

「いづづづづっ!?」
「ほれほれ」

ぐりぐり。
正直、柳が消毒液まみれになるのもこれでは時間の問題である。
これは怪我の完治を早める行為ではない、ただの遊びだ。

「あ、あの、そのくらいでいいのでは…」
「えー、最近全然やってなかったからいいじゃないもうちょっと」
「あー…」

人間として何かを間違っている、少なくとも養護教諭の道を選んだ辺りが。
まだ名前も知らない保健室の主人を、相原大地は止めるでもなく勧めるでもなく。
とりあえず、友人の不幸を嘆くくらいはしておこうではないかと、おもむろに話しかけてみる。

「大丈夫か、柳」
「…男子だから耐えろってレベルじゃねーよ…」
「あら、いっぱしにジェンダーを語ろうっていうの、少年」
「へぎゃっ」

見ているだけで痛々しくなってきた。自分が怪我をしたわけではないが、これは…心が痛い。
絶対怪我はしない、病気もしない。健康に過ごしてやる、と大地が決意したのは言うまでもない。
なんなのだろうか、この破壊的な白衣の人物は。その割には机の上に可愛らしい羊の人形がちょこんと座っている。
赤いリボンを首元に巻き、少し汚れて年季のはいった、手のひらサイズの人形。
黒いプラスチックの瞳が、白い蛍光灯の光を反射して、生きているかのように瞳が再現されている。

「ジョーちゃんはあげないわよ、もう一人の少年」

ああもうこっち見ながら処置しないで、綿棒が明後日の方向向いてるから! 柳がそろそろ限界だから!
叫ばずには居られない、そんな状況を打破したのは、やはり何事も慣れが重要だという事実があるからであろうか。

「もういいでしょうよ、桃井先生。このままじゃお話が聞けるかどうか…」
「…そうね、美空先生が言うなら仕方ないわ。感謝なさい、少年」
「いや、俺には小峰柳って名前が…」
「いいじゃない、名前なんて。ねえ、美空先生?」
「いえ、近代哲学的に見ると、名前は重要な立場を占めていますよ、こっそり」
「…」

あ、黙った。
マッド・サイエンティストを黙らせたのは、意外や意外、おっとりとした雰囲気の女性。
周囲にお花畑を展開させながら歩いている、というのは言い過ぎかも知れないが、否定もしきれない。
ほんわかとした大和撫子、背反し合うはずの単語が両立してしまうのは異常でもなんでもない。
言葉は対象をそう見せたいが故にそう在るのであり、単純に言ってしまえばただ綺麗だというだけのこと。

「えっと、小峰柳君と、相原大地君よね?」
「あ、はい。…何故、僕の名を? まだ名乗ってもないのに…」
「何故って、生徒の顔と名前は覚えなくちゃいけないものだから。
 名詞がないと人は物体と物体の判別が出来ない。名前がないと認識が出来ない。
 特に教員は、個人を認識した上で指導をしなくては…っていうのを、きっと国語の授業で後々詳しくやります」
「…」

早速ついていけない柳。大地もあやふやだが、なんとなく主旨は把握した。
人の名前は覚えろ、覚えるに越したことはない。それだけだが、重要な事だ。

「で、紹介が遅くなりましたが…。
 私は美空撫子、担当は家庭。そしてこちらは、養護の桃井未都先生」
「…水戸こうも」
「駄目それNGワードっ!」

怪我人を容赦なく叩く男、相原大地。
この衝撃で馬鹿が治ればいいのにと、早速考え始めてしまった。
本人はそんなことを毛頭気にする様子もなく、頭を別の意味で抱えている。

「あ、あはは…」
「…畜生、なんか薬でも試しときゃよかった」
「まあまあ桃井先生、モルモットならいるのでしょう? それよりも、重要なのはこの先ですから」
「…ちっ」

随分と性格の悪い献身を職とする人間もいるものだ。
未都は回転椅子をくるっと回し、机に向かって覚え書きを取り始める。
換気扇のくるくると揺れる音のみが響く、一瞬の擬似的な静寂。
そこに被さるよう、撫子は柳に問いかけた。

「何を、見ましたか?」
「…へ?」
「字数制限は設けません。何を見たか、できるだけ詳しく述べてください」
「…。おい、大地」

不機嫌そうな顔が、回転椅子のようにはいかないが、くるりと大地に向き直す。
彼が何を求めているか、それはわかっているし、何と答えるべきかも重々承知している。
だが、そう簡単にはいかないのが、この世の習い。

「俺たち、見たよな…『アレ』を」
「…うん、保証する。絶対に見た、『アレ』を」

大人こそ信じてくれないし、それ以前にこの年齢になってこんな事、滅多なことが無くては言えない。
嘘だと一蹴されるか、ふざけるなと罵倒されるか、馬鹿馬鹿しいと嗤われてしまうか。
だが、だんまりを決め込むにも分が悪い。ここまで最悪の相手もいない。
相手は武力に訴えないし、権力も行使しない。無防備だからこそ、話さなくてはならないという義務感に襲われる。
自分たちのために、何故貴重な時間を裂いてくれているのか。それを嘆きも怒りもせず、一心に受け入れようとしているのか。
カツ丼はないが、これはもう、話すしか方法はなさそうだ。

「『七不思議』の、『森の主』を」

そしてタイミング良く、歯切れの良いノック音が、控えめに聞こえた――。




□美並一希 [3B]
…ぼくらの副寮長、みんなのパシリという誉れある立場にいるロバめいた人間。

□八神刹那 [3A]
…生徒会長、周囲からの扱いを見るに、あんまりおつむがよろしくないようです。

□斉多縁/サイタユカリ [3B]
…学園創立五十周年式典委員会の長、ちょっとキツい面もあるがそれは愛故です。

□大河内真訪/オオコウチマトイ [3C]
…同委員会の書記に大抜擢、ツッコミ担当のハズなのに実は眼鏡のシャイボーイ。

□千歳恭臣/チトセユキオミ [3C]
…生徒会書記兼会長飼育係、コーラ依存症は禁欲主義と矛盾しないのだろか。

□桃井未都/モモイミト [養護]
…保健室の変人ではなく麗人、実験やジョーちゃんに関する話で一話分は語れそう。

□美空撫子/ミソラナデシコ [家庭]
…名は体を表して大和撫子、おっとり系だがモルモットと言ってしまうあたり、もしや…。





未都ちゃんが大爆笑なキャラクターになってしまった。柳=私の立場でお送りいたします。

[BGM:才悩人応援歌/BUMP OF CHICKEN→A Night Come's! /URAN]

3/7 撫子さんの科目を間違えて加筆修正…なんという失態! orz
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by SSS-in-Black | 2008-01-20 22:35 | 【School】