小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

<   2009年 01月 ( 3 )   > この月の画像一覧

元ネタ→軍モノ@ばうばっは。(by.さもえど)

以下、リンクで該当話へどうぞ。下スクロールはきついかも。


 

【ルサンチマン】
―参謀長と獣馬部隊長
 「…だから、ただ飽きただけだ」

【DASEIN】
―「猛犬」と召喚術士、その親衛隊
 「早く治るための、おまじないだって」

【Aufheben】
―「狂犬」と狐と鳥
 「おい小僧、お前も丸焼きにするぞ」

【あれか、これか】
―暗殺者と楽隊長
 「…よめさん、みたいだから?」

【目的の王国】 (上手く飛べなかったらこちら
―狙撃手と契約精霊
 「面白い話をしてあげましょう」




















 


『ファインヤード准将という風変わりな参謀長がいる。
彼の元へこの封書を届け、読み終わり次第即刻焼却するよう伝えてくれ』

それ何てパシリ? と思いながら逆らうに逆らえず渋々と上司からの命令を承る。
しかしそれだけで終わらなかった。

『呉々も、准将に嫌われぬようにな。
あれは元々貴族だった故、下手をすると首が飛ぶぞ』

それ何て死刑宣告? つか要は面倒な用事を押しつけたかっただけですか上司?

『ほら、早く行け』

…はいはい畜生俺が死んでも知りませんよ。
そうなったらきっと、葬列には沢山の女の子が涙を流して参列するだろうに。
それでも見て猛烈に後悔すればいい、上司も例の准将も。



【ルサンチマン】
(きっと俺は、何も知らないことを夢見てる)



「…またお前か」

そんな風に毒づいていたのは少し前のこと。
今となっては、彼の元への遣いがなんだか楽しく感じられる。
別に相手が美人だからとか、ましてや惚れたからではない。
初めて会った時に、『高嶺の花』の振りをする彼が、常人ならぬ存在のようだと純粋に思ったからだ。

「あ、もしかして俺が来るの、楽しみにしてましたか?」
「煩い黙れ」

北方の貴族出身で、それを思わせるような優雅で洗練された物腰(普段の口調は軍隊風で残念だが)。
顔立ちは女のようであり、不思議なくらいに人を惹きつける。
しかし酷く他人を嫌い、必要最低限以上に何も語らない。
従軍するようになり八年、彼と『まともな』言葉を交わせた者は恐ろしく少ない。

「何の用だ、手短に言え」
「うーいっす、いつもの如くですよ」

俺は赤い蝋で封をされた手紙を差し出す。
白い手袋をした手がそれを受け取り、器用に右手袋を口で外して――中指の先を噛み、するりと抜く――、蝋を爪で剥いだ。
文面を見る間も、仏頂面。

「…馬鹿馬鹿しい」

彼は羊皮紙をわざわざ机の上に取り出し、何事か書きはじめる。
どうも、嫌なことがあったらしい。眉間に深く皺が寄る。

「どしたんすか?」

冗談半分、返事を期待せずに聞いてみる。
が。

「実家から出頭命令だ」
「…へ?」

返事が返ってきてしまった事に驚きを隠せない。
しかもかなり個人的な話である。
どう対処しようかと焦るうち、向こうからまた問わず語りに話が進んでゆく。

「私がこちらに来てから一度も帰らないと言って、最近ひっきりなしに呼び出しがかかる」
「あらら。休みもらって顔ぐらい少し出したらどうです?」
「却下」

瞬殺された。
それも射抜かれそうな視線をこちらに流しながら。
家族仲でも悪いのだろうか。そういえば、どうしてそれなりの貴族様がこんなに危険な場所で軍師などしているのだろう。
謎である。

「私は帰りたくないんだ、あんな場所に。
日常茶飯時の騙し合いに飽きた、そう、飽きただけだ」
「はあ?」
「…だから、ただ飽きただけだ」

物分かりの悪い奴め、と冷酷で残酷な寸評。
受け止めて恐々、する間もなく揺らいでゆく状況。
何時になく機嫌の悪い准将は、誰に語る訳でもなく口を動かし続ける。

「貴族なんて、虚構に彩られた存在。
何も生み出さず、ただ搾取することで日々を生きるという愚行。
それでいて、だからこそ、明日を生きていけるかもわからない。
…現に、私の姉は、親しくしていた家庭教師に殺された」

手袋を脱いでも白い手が、細い指が、血色の悪く紫がかった爪が、彼宛の手紙を摘む。
嗜み程度にしか武術も魔術も知らず、その代わりに戦術で身を固めた青年。
何も許さず、何も信じず、何も望まぬ振る舞いの正体。

「姉の死体は無かった。が、寝室に流れていた血は、どう見ても致死量だった。
それから直ぐに家を出た。犯人もとうに消え失せていたから、追おうと思った。
その時の私にあったのは、残念ながら貴族の象徴…金と地位と権力だけ。
幸いにも兵法の知識と軍上層部との知遇があり、ここに入ってからは知っての通りだ。
そして、だ。――私は見つけた」

姉を殺した、犯人を。

「姉は不幸だったよ、愛した者に殺されたのだから。
私は軍の仕事の裏で各地に情報網を張り巡らせ、とうとう奴を見つけだした。
…それも、とても近くに」

手元で燃えていた蝋燭の炎が、差し出された便箋の片隅をちろりと舐めた。
同じように唇を舐めた彼の赤い舌が、艶めいて見えるのは何故だろうか。
それは、その瞳に常ならぬ狂気を見いだしたからであろうか。
紙の焦げ、焼けてゆく臭い。
炎は黒く流麗な文字を、青い花模様の透かしを飲み込み、無へと染め上げる。

「彼は、私に兵法を教えた、張本人――」

その唇が綴る名前に、どうか聞き覚えが無いように。
そう祈ったが、遅すぎた。





(ルサンチマン‐怨恨感情)































 













 


俺は今、暗殺者ばりに気配を殺している。
さもなくば、殺される。

「あ、ラックルさん」

――残念、死亡フラグが立ってしまった。



【DASEIN】
(…生きて帰れるのかな、俺)



(だめだめサイレスこっち来ちゃだめいい子だから)
「何ですかラックルさん、内緒話ならもっと近づいてから…」
(頼む近づくな! 頼む! お願い!)
「もう、隠し事ですか?」
(わー来るな、来るな、来るな)

ざじゅっ。
俺のへばりついていた壁、丁度頭の真横にあった原形を留めていない張り紙がいきなり発火した。

「ぎゃあ!」
「風君、お願い!」
『…諾』

燃える張り紙はこれまた突然の旋風に圧倒され、吹き飛ばされた。
その正体は、サイレスの使役する精霊の中でもずば抜けて力の強い、「風塵」の風君。
今日もまたいつの間にか、少女のような主君(実年齢と外見が下手すると十違う)を守るように、姉のような立ち位置で顕現していた。

『これで良いですか?』
「ええ。ありがとうございます、風君」
『いえ…あの忌々しい鳥の火の粉が貴女に降り懸からないよう、どちらにせよ私は貴女を守ったでしょうから』
「…」

発火の原因は明らかに、彼女の義兄であるスザク少佐である。
彼の精霊である「戦火」の凄焔は、流石の上位存在、かなりの遠距離に在るものでも寸分違わず発火させることができる。
そしてその凄焔と、サイレスの風君は異様に仲が悪い。
どうもかなり昔に、それぞれの主人二人が仲違いをしたのが原因らしいが、それにしても、である。
今となっては仲が良すぎて脱線しそうな義兄妹の間にも、過去は不透明なものとして存在している。

「…。お怪我はありませんか、ラックルさん?」

そして赤の他人である、俺。
妙な間をおいて不安そうな顔をこちらに向けるサイレスと、問題はやはり厳しい目つきの風君。
サイレスのごく周囲にいる人物や精霊は、悉く俺に対して敵対心を燃やしている。
その点に関しては風君と、凄焔の主であるスザクの意見が合致。妥協を経て『サイレスを守ろう同盟』なるものを結成した様子。

「俺は平気だよ」
「…と言いながら、毛先が若干焦げてますよ」
「へ?」

確かに、何か焦げ臭いと思ったら。
でも髪の毛には神経がないから、痛みなどこれっぽっちも感じない。
それなのに。

「すみません、兄上が…」

焦げた耳元の癖毛。
必死に背伸びをして、優しくそれを掴む。
子供みたいな手だなと思う俺は、きっと状況がうまく飲み込めていない。
――毛先に落とされた、小さく無意識な口づけ。

「ちちょっとサイレス!?」
「だって、兄上は私が怪我をするといつもこうしてくれますよ? 早く治るための、おまじないだって」
(スザク少佐のバカ…むしろシスコン!)

一方で、義兄妹の健全な在り方を問いながら。
…毛先は神経が無くてちっとも痛くないはずなのに。
愛おしさは、苦しいほど感じられるなんて。

「あ、真っ赤」
「さささサイレスだって!」
「…え? や、やだ…っ」

そうとだけ言うと、くるりと小さな背を向けて。
今にも走り出しそうな背中に、

「ありがとな」
「…え?」
「おまじないだよ」

それだけ言うのが、限界だった。
恥ずかしさをバネにして、彼女は駆けてゆく。身長の半分は優にあるひっつめ髪が、ゆるゆると後を追う。

「…。お前は行かないのか、風君」

サイレス、行っちまったぞ。
暫くは「春一番」の天英――やはり彼女の精霊で、実体は只の無邪気な子供――あたりを話し相手にして、熱が冷めるのを待つのだろう。

『…一言だけ、お前に伝えておこう』

それでも風君は動かず、俺を見据えて口を開く。
美女の姿に身を窶しているとはいえ、それはまさしく竜の瞳。
緑の散る、金色の光彩。

『私は、お前が嫌いだ。
凄焔も嫌いだ。あれの飼い主も嫌いだ。
お前達は、サイレスを悲しませる存在だから、嫌いだ。
私は、サイレスを傷つけるかもしれない連中が、全員嫌いだ。
その中でもお前は、一番サイレスに近い場所にいるから、特に嫌いだ。
だから私は、あの忌々しい狐と手を組んだ――あの子を、泣かせないために』

嗚呼、何も言い返せない。
それは至極、尤もなおはなし。

『お前がサイレスを泣かせたら、私達がお前をどうするかはわからない。
たとえお前が死んだとしても、冥府の果てまで追いかけて往こう。

――「猛犬」。
お前に、その覚悟は、あるのか?』





(ダーザイン‐ここに、いま、わたしは、)

























 



















 


「あ、スザク少佐ー」

悪寒。

「あれ、無視? むし? けんちゃん寂しくて死んじゃうよー?」

嘘つき。
そういうことを言う人こそなかなか死なないって、経験上、知ってますから。

「それとも、襲われたいのかな、お兄さ」
「いい加減つきまとうのを止めなさい!」
「えー」
「不満は聞きません!」

シッシッ、と…我ながら馬鹿馬鹿しい方法であるが。
それを見て蒼紫犬太郎は、むしろこちらに近づいてくる。

「何してんのさ」
「あなたには関係ありません」
「あるでしょーよ。どうせサイレスちゃんじゃない?」
「な…」
「まあね、僕的にはただの可愛い女の子だけどさ。ああいうのが好みな奴もいるよね」

某銀髪の大将とか、と、それは匿名になっているか微妙ですよ。

「ラックルもそういやねー」
「…」
「はっ! ままままさか少佐も…!」
『おい小僧、お前も丸焼きにするぞ』

もう疲れ果てました、と返事をする気にもなれない私の背後に現れたのは、「戦火」の凄焔。

「少佐諦めないで! 義理なら法的には平気」
『主を侮辱、するなっ!』

蒼紫さんの目の前に、火花が飛ぶ。
…良かった、牽制程度で。

「…で、あなたは何の用事ですか」
「いや特に」
「なら、どこへなりとも立ち去りなさい」
「でもねー」

立ち去ろうとしない彼。
背後にいる凄焔の纏う熱が、上がってきた。

「果たして悲しくさせないだけがいいのかなって、僕は思うけどね」
「…?」
「こう、悲しみがあってこそ強くなる部分ってあるでしょ?
愛おしさと悲しさがぶつかって、生まれるものもあるでしょ?
…無意味に避けるだけじゃさ、うまくいかない気がするんだよね」

そうとだけ、独り言のように呟いて。

「ま、がんばって」

彼の姿は、みるみるうちに遠ざかって行った。



【Aufheben】
(私だって、判っていますよ)



『主』
「…深追いはしなくていいですよ」
『いや…。主はあの竜と違って、純粋に妹君に幸せになってもらいたいだけなのだろう?』
「…さあ、ね」

今の私に出来るのは、あの子に悪い男がつかないように。
そして、執拗な嫌がらせの中でも、あの子を好いてくれる男が現れるように。
…なんてことももしかしたら、あの子を手放したくないからと湧いてきた言い訳に過ぎないのかもしれない。

「行きましょうか、凄焔。そろそろ戻らないとまたシオンさんの機嫌を損ねますから」
『…御意』

うまく逃げて、隠れてごらんなさい。
うまくあの子を射落とせたなら――私も少しは考えましょうか。





(アウフヘーベン‐矛盾の衝突、破壊と創造)




























 















 


ノックをするも、返事がない。
雷王が意を決して楽隊用倉庫の扉を押すと、それはあっけなく開いてしまった。
そして視線の先には、

「…あ」

その身丈のぴったり二倍ほどある楽器の陰に、それを操作しようと奮闘する男の姿があった。



【あれか、これか】
(この世はどうせ、二者択一)



「ノックくらいしろよ、いきなりあんな状態で恥ずかしいじゃないか」
「…した」
「しても聞こえなかったら意味ないって」
「…リュリ、おれが、あれたたくと、怒る」
「そりゃ一度、扉に罅入ったからな」
「…ごめん」
「ああ嗚呼凹まないで! へこまないでいいから雷王!」

椅子に座らせてもあまり視界が変わらない旧知の友を必死に慰める。
傍らから見ているとまるで漫才だが、本人達はこれで必死である。
…嗚呼椅子がみしって言った気がするどうしよう。

「しょうがないじゃないか、雷王は腕っ節が強いんだから…ってだからごめん! 別に虐めてるわけじゃないからね雷王!」

泥沼にはまってゆく二人、主にリュリ。
雷王の方は最近お気に入りの部下を引き抜かれたらしく、ただでさえ少し落ち込み気味なのである。

「もー…わかったよ」

リュリは一度奥へと向かい、直ぐに引き返してくる。
手には年季の入った革鞄。古びた金色の留め具を開くと、赤い敷皮の中に一対のヴァイオリンと弦が現れる。
俺は口下手だからさ、と言いながらそれを構えて、奏で始める。
雷王も第一音が室内に響くと、途端に顔を上げる。
戦場では滅多に耳にできない、弦楽器の透明な音色。

「…」

戦場の主役は、打楽器と管楽器。
遠くまで聞こえて、かつ力強い音の出るそれらはまさに戦場の花。
だが、リュリが本当に愛しているのは、弦楽器――それも、この小さなヴァイオリン。
戦場では音が響かないからと、敬遠されるそれが、彼の専門であり相棒であった。
しかし、有翼人種であり、魔物に近い立場に立たされた彼が生きるためには、楽器を武器に戦場へと赴かなくてはならなかった。
自分の趣味を取るか、或いは軍楽隊員の一人として役目を全うするか。

(『あれも、これも』はただの幻想)
(『あれか、これか』しか僕らには許されない)

彼はトランペットを手に、戦場を駆け巡った。
その姿が、味方には幸運を、敵には神の迎え――平たく言えば死――を運ぶ、天使のように映ったのかもしれない。
力がモノを言うこの世界で、彼は気づけば隊長の地位にまで上り詰めていた。
そして慰安部隊にいた歌唄いの少女を嫁に貰い受け、彼女との間に五人の子をもうけて、今に至る。
『あれか、これか』のこの世界で、彼は今日も選択を迫られる。

「…戦場で弾けないかな、って思ったんだ」
「…あれ、を?」

演奏が終わり、こぼした言葉。
雷王が指さした先には、例の巨大な弦楽器。

「うん。でもさ、無理だよ」
「…目立つ、から?」

少しまた暗そうな大男。そうだ暗殺関係者なのに筋骨隆々で目立つのを気にしていたんだっけ。
…どうも禁句、あるいはそれにつながる発言が多いなと反省しながらリュリは応える。

「それもあるけどさ。
…弦楽器を、戦場に連れていくのが怖くなった」
「…よめさん、みたいだから?」
「ああ…って雷王、何勝手なこと言ってんだよ! そそそそんなことないんだからなまったく!」
「…図星、だ」

無駄に焦るリュリを見て、ようやく素直じゃないなあと笑う雷王。
リュリが少し年上の少女に惚れてから、結婚して子供が生まれるまで、どうやって彼が彼女を口説いたかはわからない。
こんなに素直になれない彼を、ちゃんと受け入れて付き添っていて、それでいて幸せそうな奥さんの笑顔を、雷王は思い出した。
それもきっと、『あれか、これか』の決断の結果。

「リュリは、ほんとに、ベルさんが、す」
「好きなんかじゃない! つか言うな!」
「…真っ赤なリュリに言われても、説得力、ない」
「わあぁぁぁぁぁぁ…」

このままじゃ悶死、もしくは恥死してしまいそうな長年の相方。
彼はいきなり雷王に向き直ると、

「帰る!」

と高らかに宣言。
…実際に帰ろうとしたのは、ヴァイオリンの後始末と手入れを几帳面に行ってからであったが。
倉庫に鍵をかけて、歩幅の広い雷王に追いつかれまいと必死に歩く、夕焼けの道。

「雷王」
「…ん?」
「夕食に、招待してやる。…お前の好きな『おさかな』料理だ」
「!!!」

おさかな! おさかな! と無邪気に喜ぶ三十路過ぎの大男。尻尾が嬉しそうに跳ねている。

「かわりに! …その、言うんじゃないぞ」
「…なにをー?」

少し悪ふざけでも、してみようかな。
『あれか、これか』の天秤は、リュリをからかう方へと傾く。
解っている、彼の望むことなんて。

「…雷王」

あ、怒る。
すかさず、フォロー。

「きょうは、リュリがつくるの?」
「ああ。…あいつ、また子供が出来たみたいで、悪阻起こしててさ。自分からじゃ言わないから俺が…」
「リュリ」
「は?」
「…リュリは、ベルが、大好きなんだね」

ねえ、リュリ。
その顔が赤いのを、夕焼けのせいにしたらどうかな?





(あれか、これか‐逃れられない決断)



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by SSS-in-Black | 2009-01-25 20:40 | 【Re:MF】
※はいりきらなかったので、【目的の王国】のみこちらに移転※
















 


考えごとをしていたらしい。
いつの間にか、小さいとはいえ蜜酒を一瓶空けてしまっていた。
目の前には、くるくる回る風車。

「…君は何をしているんですか?」
「うーん、いたずらかな?」
「かな? って、フク…」
「…目、回ってる?」
「…。まあ、言われてみれば」
「よかったー」

くるくる回る風景の中に、彼は笑っていた。
柔らかな黄色の髪から、二本の耳が生えている。
ふさふさとした尾を揺らしながら、彼は普段はいつもこんな調子だ。
本当に戦場での形相と実力を疑いたくなる、精霊――「風車」のフク。
こうして子供の姿に変化し、子供の様に笑っているのは、どういった理由からなのだろうか。

「フク、面白い話をしてあげましょう」
「うん。…でも、かんたんにね? 今のメイザス、お酒くさいんだもん」
「よしよし」

苦笑。こうして一直線に理由を言うのも、子供らしい。
でも、風車をポケットに仕舞ってくれたのは有り難かった。視界が段々安定してくる。

「昔々、戦争がありました。
ある隻眼の将軍は海で戦い、自国を勝利に導いたにも関わらず、流れ弾に当たって死んでしまいました。
彼の死体を乗せた船が彼の故郷に着くまで、長い時間がかかりました。
その間に死体が腐ってしまったら大変だと、ある船員が将軍の死体を蜜酒で満たされた酒樽に入れました。
その話が広まるにつれ、強かった将軍の力にあやかろうと、沢山の船員が、こっそり酒樽から酒を飲んでいきました。
そして船が故郷に着いた頃、酒樽の中の蜜酒は、すっかり空っぽになってしまっていたそうです」
「…うわあ」

あ、少し嫌そうな顔。
当たり前と言えば当たり前かもしれない。
だって、船員達は死体の漬けられた酒を、そうと知りながら進んで飲んでいたのだから。

「ぼく、もう蜜酒飲めないや…お酒は飲まないけど」
「なに、これはただの伝承だから、気にしなくても平気ですよ」
「…気にするよう」

しかもメイザス、さっきまで蜜酒飲んでたでしょ? よくそんな話ができるよね。
――目で訴えてきた文句が、手に取るように理解できる。
普段のフクはもしかしたら、こういった少し毒のある話が苦手なのかもしれない。

「…。まあ、この将軍は幸せだったでしょうね」
「?」

だったら、普段の彼用に、話をまとめればいい。

「だって、彼のようになりたいという『目的』が、このような行為を導いたのだのですから」
「…」
「フクは、例えば私がフクのために焼き菓子を焼いたら嬉しいでしょう?」
「うん。…油揚げの方がもっといいなあ」
「はいはい。でも、つまりそれと同じことですよね?」

自分が、無個性な『手段』ではなく、人間らしい『目的』として扱われる世界。
そんな世界を理想とした思想家は、肖像画の青いきらきらした眼が印象的だった、果たして彼だろうか。
薄ぼんやりとした記憶に拍車をかけるよう、蜜酒がほの甘い霧を脳裏にかけてゆく。

「…メイザスも、自分が『目的』にされたら、うれしい?」
「ええ。…まあ、『手段』にされたとしても、相手にされてる分だけ嬉しいですが」
「ふーん」

そうして何やら考え込むうちに、若干瞼が落ちてくる。
フクも私も『目的』にして、睡魔は等しく襲いかかる。

(ここで寝て風邪でもひいたら、少なくとも二日酔いでもしたら、ややこしくなるでしょうね…)

落ちる幕の裏に、まず浮かべたのは例の指揮官。
このままでは夢見が悪くなる、と振り払い、思い出したのは、

(…嗚呼、またか)

冷えた部屋の寝台から溢れて湯気を上げる血の触感。
彼女は破滅を殺す『目的』だったのか、或いは世界を生かす『手段』だったのか。
その綺麗な、死を受け入れた顔が、微笑むのを止められなかった。

彼女は、私を愛していたのだろうか?
『目的』という贅沢は言わない、せめて私は彼女の中で、『手段』であれたのだろうか。
――それすら贅沢だと、世界は私を赦さないのだろうか。

地の底から沸き上がるかのような笑い声で、目が覚める。
誰の声かと思う間もなく、視界に飛び込んできたのは、一輪の風車。
風もないのに静かに回っているのは、精霊の作ったそれだからであろうか。

(…そういえば、風車は子供の象徴でしたっけ)

異国の祝いで、ある一定の歳になった老人に風車を持たせるというものがある。
その島では、その歳になると老人は子供に戻るとされている。

(だから、あなたは子供なのかもしれませんね)

長い生涯の、嫌なことを全て忘れて。
無垢な魂を保つために、彼はそう名乗り、それを信じる。
世界には、あまりに辛いことが多すぎる。
乗り越えるか、迂回するかは、自分次第。

(フク、)



【目的の王国】
(私は君をいつか、世界を乗り越えるための『手段』にしてしまうかもしれないね)





(目的の王国‐全ての人間、人格を尊重する理想社会)






















 








【反省会】
(…しかしあまり反省はしていない)

とりあえず、タイトルと話の軸にあるのはいろんな思想です。
つか、タイトルに思想ネタを使ってみたかった。誰が誰でしょうだけど。
結構有名な言葉や著作タイトルなので、わかる人はわかるのかも。

ただ最後の『目的の王国』は意味を正しく理解してなかったらスミマセン ←

とにもかくにも! まずは「小ネタ投下おk?」という打診に快くGOを出してくれたさもうどん。
君の妄想が私をここまでやらせちゃいました。あと口調とか間違ってたらごめんなさい。
そして皆様へ…ここまでよんでくださり、ありがとうございました!
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by SSS-in-Black | 2009-01-25 20:39 | 【Re:MF】
「…なあ、メイザス」
「わかってます。《魔王》と《女神》でしょう?」
「読まれてたか」
「わからなくて当然の話ですからね。
いわゆる、あの世界の創世神話とよばれるものの断片です。
簡単に掻い摘んで話せば…


昔、むかし…
世界は《女神》《魔王》《龍帝》、そして数々の精霊により形作られました。
ところが《女神》と《魔王》の理想は相反するもので、戦いになってしまったわけです。
《女神》率いる精霊と、《魔王》率いる精霊。それぞれが後に、天使と魔物の起源となります。
中立の《龍帝》は、どちらにも属さない弱い存在を守ることにしました。これが人間のはじまりです。

…終わらない戦乱は、それこそこの世界の滅亡によってしか、終結しないかと思われた時のこと。
二柱の《名も無き神》が人知れず降臨し、《女神》と《魔王》の元へと向かいました。
そしてその魂と躯とを切り裂き、別々に封印したのです。
《女神の魂》は空の頂に。《魔王の魂》は海の底に。
破壊できず残った躯も封印し、人の形をした《器》として、人の世界に隠してしまいました。

《器》は転生を続けるものの、それは人の世界での話。《魂》と出会うことは絶対にない。
それでも万が一のことを思い、《名も無き神》らは人の世界で共に転生し続けることにしました。
また《龍帝》も監視役ということで、転生の道を選びました。


…ですが、《女神》と《魔王》の戦いは、残念ながらその後何度か起こってしまいました。
そう――これは単なる伝説ではなく、史実なのです。
あの世界に生まれ落ちた者は必ず、この話を何よりも最初に聞かされて、何度も何度も繰り返し、その子が話を覚えるまで語られ続けます。
私も例外ではなく、この話を寝る前に何度も何度も耳にしました。母の口から、父の口から、数え切れないくらいに。」
「だけど…わからなかったのか、自分がまさに《器》だってことに」
「ご名答。…あの時になるまで、私は普通の人間として生きていたのです。が、あの時から私は変わってしまいました。
…私は《器》、この躯は《女神》の所有物だったのだと」





ある巨大な存在の末端は、感情を持っているのか否か。
むしろ私たちのいう、こころ、は…どこにあるのだろうか。
古の時代からある疑問を、私はそこで抱いていました。
私は、私が、本当に彼女を愛していたのか。
敵対する《器》として、さだめとしてではなく、惹かれていたのか。
その前に――あの感情は、愛であったのか。

あるかないかの月がゆらゆらと揺れて、予言の成就が近いことを告げました。
月、星、そして太陽はむかし、《龍帝》が《女神》と《魔王》の仲を取り持つために贈ったのだといいます。
…私にはそれらがまるで、《龍帝》自身の瞳のように思えました。監視役として、常に人間の世界を視ているのだと。
何をしようと、世界は止まらない。すべては移ろい、消えてゆく。
私は祈りました。一心に、ただ、彼女のためだけに。
何故なら、あまりにも彼女は《器》として脆すぎ、ゆえに美しかったのです。なんとしても、無駄だとわかっていても、救いたかったのです。

ですが、理解していたのです。
かつて、私は私を守ってしまった。
だから、今度は彼女を守らねばならないと。
それが、例え耐えられぬ痛みを伴う選択であっても。
つまり、

「…愛してる」

銀色の弾丸で、《器》を破壊し彼女を助けること。
彼女を《魔王》ではなく人として、送り出すこと。
同じ『最期』ならば、私が背中を押してやること。

――わかってしまったのです。
先延ばしをしても、さだめは変えられないのだと。
必ず私は、《女神の器》として…彼女を愛する一人の男として、彼女を殺さねばならないのだと。

決意を言葉にすると、想いは透き通っていきました。
繰り返し、繰り返し、狂ったようにそれだけを伝え続けました。人形のように動かない、呼吸だけを続ける彼女に、囁き続けました。
理由もなしに、誰かを好きになってしまったら、受け入れるしかないのです。
それが、さだめ。――最大多数の人々が、最大の幸福を受け取るために、誰かが仕組んだ舞台の脚本。
《女神》がいて、《魔王》がいて、《龍帝》がいて、《名も無き神》がいるならば、語り手がいないとどうして割り切れよう?
私は彼女を愛した。それだけが変わらず、また変えられぬ真実だとしたら…現実は、自ずと浸透してゆくのです。


窓から射す月光が、約束を連れて紅くなる。
じきに彼女が、彼女ではなくなる。
――私は、撃鉄を下ろしました。


それから、隣室にいた団長が飛び込んでくるまでの記憶は朧気です。
私はそれまでに、二つのことをしました。

一つは、《魔王の魂》の再封印。
逃げだそうとするそれを捉え、躯の底から沸き上がってくる言葉に身を任せ、気づけばそこには黒猫がいました。
…私がかつて飼っていた、あの、黒猫。しかしその姿は、少しずつ変化してゆきました。
お気づきですか? …これが、フィフィの誕生の瞬間なんです。
フィフィは体内に、《魔王の魂》を封じている。彼女は魔、そのものなんです。

それから、もう一つ。
今際の瞬間に…《魔王》ではない彼女が、ふと意識を取り戻したのです。
ほんの一日前、刺客の影に恐怖していた彼女が、帰ってきたのです。それこそ、あの時と同じ場所で、同じ体勢で。

―メイカ。

ひゅるひゅると、生命が消えてゆく音。それでも、焔は最期の最後まで、煌めくことをやめようとしない。
開いた瞳は、初めて出会ったあの時と同じ、虹のように鮮やかに輝く…硝子色。
私は、もしかしたら彼女よりも、死を恐れていたのかもしれない。
私は…道連れになってもよいと、思いました。
生者の世界と亡者の世界との間には、たやすく行き来ができないよう、世界と世界を隔てるような広く大きい川が流れているのだといいます。
もし女性は死ぬと、その川を『自分が初めて愛した人物』に背負われて渉るという伝承がありまして――ふとその記憶が、甦ってきたのです。
私は果たして、彼女を向こう側へと連れてゆけるのか…私は彼女を愛していたとしても、彼女は私を愛していたのだろうか…私は、彼女にふさわしい人物だったのか。
止めどなく迫り来る不安が、押し寄せる苦痛が、荒れ狂う流れとなって私に襲いかかりました。

―ナカナイデ。

血の気を失った唇を読んではじめて、私は泣いていることに気づきました。
彼女の声は本当に小さくて、話さなくてもいいと宥めても従わず、衰弱してゆく様子がありありと見受けられました。
私は語りかけるべき言葉も見失って、ただ、ただ、彼女を抱きしめていました。
血の温もりだけがそこにはあり、氷のように、四肢が、肩が、背中が…全身が徐々に冷えだして、私は更に嘆きに暮れました。

―ネ、ナカナいデ。

彼女は私の頬に、その血に塗れた白い手をのばしました。
泣き笑いのような表情で、私だけに、語りかけてくる。

―アりがトう、このセカイを、スくってくレて。
 メイカなら、まちがワないって、おモってた。

窓際の黄色い花が、ひらりと、花弁を血溜まりに浮かべました。
点々と黄色く、跡切れ跡切れに紡ぎ出される、言葉の断片。
残された時間は、僅かであると…噎せ返るような花の香りに包まれて、私はまた、涙をこらえきれなくなりました。

―メイカ、わたしも、ネ…

もう、手を伸ばしていられるだけの力も、尽き果てて。
私がみっともなく泣きじゃくっているのに対し、彼女が最後に浮かべたのは、笑顔。

―あ、い、し、て、る。





「私は放心状態のまま、罪人として裁かれることとなりました。彼の世界では、同族殺しは例外なく死罪…仲間である存在を殺す事は、何よりも重い業となる」
「じゃあ、あんたは…」
「当たり前ですけど、脱獄しようなんてこと、思いつく気にもなりませんでしたよ」
「…ということは、裁きは受けたんだね」
「ええ…でも、刑の執行までには少々時間がありましてね…」





私は、牢屋に入っていました。
場所は、あの村の近く、傭兵団の拠点があった国の隣国…ファンダーシャン王国。
陽当たりの悪いあの監獄が、私の最後の場所となるのだと、ずっと信じていました。
彼女が事切れた時、私も死のうと思ったのです。が、丁度その時に見つかってしまいましてね。
話を聞く限り、血の臭いに頭がおかしくなったんじゃないかと思われるくらい――私はまだ、泣いていたそうです。
彼女の名前を、一心不乱に叫びながら。
だから気づいたら、あの狭い部屋に押し込められていたのです。
外界とは一切の連絡手段を絶たれてしまいまして、弟にさえ、何も言えず…。
私は恋人を殺した狂人として、収容されていました。

さて…その噂を聞きつけてか、否か。
執行の前日に、面会を望む人物が現れましてね。いえ、きっと以前にもいたのでしょう。でも、普通はこんな人間と会おうなんて、門前払いを喰らうのみ。
だからきっと、特別な誰かなのだ…という当たり前のことも考えられないくらい、私は、彼女の後を追うことばかり思っていたのです。
最期の言葉が繰り返し、くりかえし、頭の中に響き渡って…残された時間を、これからのさだめを、私は、どう扱えばいいのか…持て余していたのです。
来客はそんな中で、邪魔なようで、嬉しいようで…現れたのは、フードを目深に被った男女の二人組でした。

―《女神の器》、だな。…久しぶり、とでもいうべきだろうか…。
―いや、わかんないから、きっと。第一、どこを基準とした「お久しぶり」?
―俺はこの前、暗殺失敗した時に一方的に。
―…覗き、変態、ダメ、絶対。
―…シめるぞ《猫神》…いえなんでもありませんすみません。

目の前で漫才を始める以上に、私には引っ掛かる点が幾つかありました。
私でさえ最近知った《女神の器》であることを、何故彼らが知っているのか。
いや、暗殺者であった彼らが、何故誰よりも早くそのことに気づいたのか。
そして《猫神》――すなわち、《名も無き神》の、片割れ。

―もう、だめじゃないハウンド。こんなにあっさり正体明かしちゃって…。
―…ごめんなさいロラルド様。
―わかればよし。で、《女神の器》…メイカ、だったっけ。
 大事なことを、伝えに来たわ。

彼女は、それを彼女と呼んで良いのかは分かりませんでしたが、手短に語り出しました。

彼らがそれぞれ《犬神》《猫神》の二柱であること。
彼らは《魔王》の復活を阻もうとし、果たせなかったこと。
そして結局、その役目が《女神の器》である私へと還ってしまったこと。

―ごめんネ、辛い思いをさせて。

問題は、その後でした。
…どうやらさだめは、私を、簡単に殺してくれないようなのです。

―執行は明日、痛くはないはずよ。
―痛いも何も、それすらを凌駕した状態の方が正しいかも知れない…もしかしたら、痛いのかもしれない。
―でもね、残念ながら逃げ出すことは出来ないわ。

だって、それは、さだめなのだから。
…言い返すだけの間もなく、二人は足早に去っていきました。

―ああ、そうだ。君の弟なら、俺たちが引き取った。安心して、旅立ってくれ。

その言葉だけを、やはり返事を待たず、置きみやげにして。
私はその晩を奇妙な心持ちで過ごし――だって、明日にも私は殺されるに近い仕打ちを受けるのですから――、お陰で朝はあっという間にやってきて、あっという間に二人の兵士が私を牢から出しました。

「こちらへ」

そうして十数分ほど歩き、辿り着いた長いながい螺旋階段の果て、最終的に通された場所は暗闇。
その中央に、ぼう、と巨大な魔法陣が。さらにその中央には、蒼い玉を戴く台座が。
そこから幾何学的な模様が広がり、最後には二つの三角形を組み合わせた星が結ばれていました。
美しい…あの時、そう思えればよかったのですがね。何せ魔術は完璧なものを基盤とし、模倣することが第一ですから。
そこには既に、九人の人間がいました。魔法の原動力となる力を支配する者たち、あるいは、執行人が。
私は魔法陣を突っ切り、奥にある小さな別の陣へと連れていかれました。横切るときに、魔法陣の支配者たちの顔も見えましてね――王国の将軍七人と、国王とその后。
そのうち一人に、私は見覚えがありました。少し外れた場所に立つ、青い瞳をした青年に。

私がこの城に移送された時、そこの小さな裏庭を突っ切ったのですがね。裏庭というよりは、何の手入れもされていない、裏口の森のような場所でしたが。
唐突に小さな、柔らかな金髪をした二人の子供が、路とはいえないような路に差し掛かったのです。
全身泥だらけで、きっとあの森の中を探検でもしていたのでしょう。鬱蒼とした森では、いつでも湿気がまとわりつきますから。
その二人を追いかけて、現れたのが彼でした。幸いにも、拘束具は手枷だけでしたが、声なんてかけられませんでしたし…あの三人組が何者かなど、全くもって解りませんでした。
ただ、着ている服は、殊にその青年の簡素でいても扱いやすそうな武具などは、随分と仕立てのよいものでしたがね。その程度しか、わからないのです。
――あの二人の子供が王位継承権第一位の王族であり、亡くした国を取り戻すという偉業を成し遂げるなんて、その時になるまでわかりませんよ。

「…罪人、メイカ・リリアス、前へ」

青年は淀みなく言いました。

「『同族殺し』、及び『魔王殺し』の罪により、これより貴公に『流転の刑』を言い渡し、執行する」

あのときの二人組の言ったとおりに。
私は一瞬で殺されるのではなく、じわじわと時間をかけて殺される。
それを確信した瞬間、私の心には奇妙な浮遊感が生まれていました。
悲しいとか、苦しいとか…そのような感情ではなく、また絶望でもなく、希望でもなく。
私に許された荷物は、ひとつだけ。
昨日の《犬神》《猫神》がこっそりあの村から回収し、牢屋番に「絶対持たせろ」と脅して預けておいたのだという、小さな黒猫――フィフィ。
しかし、それ以外には何もない。ほぼこの身一つで、どこかへ放り出される。
しかし、どこへ? …それだけは、あの二人組も教えてくれなかった。
だからこその余裕だったのかもしれません。きっとあの地点で行き先がわかっていたら、短絡的な私は是が非でも死のうとしていたでしょう。

「罪人、言い残すことはあるか」

何を今更、と思いながら、私はゆっくり肯きました。
青年の、空より高い蒼の瞳を見据えて、ただ一つだけの心残り――弟への伝言を告げました。

「…確かに、言付かった」

その言葉と同時に、全ては、動き出しました。





「…やっぱり、痛かったのかい?」
「いえいえ。むしろ、大量の酒を一気に煽った感触に近いかな? あの時のことは、お陰で殆ど覚えていません」
「…良かった、と言うべきかねえ」
「まあ、そうでしょうけどね」





気がつけば、私は不思議な『空間』に居ました。
まるでずっとそうしていたかのように、騎士が主君に忠誠を誓うかのように、膝を立てて、座って。
主君の右手には白い『鍵』、左手には白い外套。
それらを私に渡したのは、『門番』を名乗る存在…新しく、そして一生関わることになる主君、でした。

「名は、メイカと言ったな」
「はい」

まるで、旧知の仲のように、口を開く。
そう言ってから、おかしいな、と思うような感覚…《女神の器》が《私》の代わりに返事をしているのだと気づいたのは、少し後のことでした。
さて、『門番』は私の目の前で笑っていました。

「面白い」
「はい。…はい?」
「実に面白い、その名前は。まさに『世界の断罪者』に相応しい」

笑う『門番』と呼ばせる者。戸惑う『断罪者』と呼ばれた者。
機械的な返答が果たして彼の何を刺激したのか、皆目見当がつきませんでした。
それに気づいてか、気づかずか。

「ある世界には、その名と同じ音をもつ言葉がある。
 その意味がしっくりと馴染むのが、不思議で堪らない」

彼は私の手から外套を引き戻し、その襟元を指でなぞりました。
軌跡を描いて浮かび上がるのは、漣のように揺れる文様。
その文様の表すものこそ、きっと、

「“The Maker”…『創造者』、即ち、」

ばさり。
投げ返された白い外套に、視界を遮られて。
私の意識は、新しい次元へと向かいました。
『世界の断罪者』として、世界を壊しに行くために。

「…メイカ、お前は、『神』を名乗る者なのだよ…」

何もない、孤独の待ち受ける途へ。





「…それからずっと、私は様々な世界を廻っていきました。流転、放浪、どうとでも言えますよ。
 目的のない旅路を繰り返すうちに、最初は彼女のことを忘れられるかと思ったのです」
「…」
「…あら、寝ちゃいましたか。まあ疲れてるでしょうし、お酒も入りましたし、刺激的な話は最初だけでしたし。
 まあ私が気持ち悪いので語らせていただくと、最初の『世界』に飛ばされた後、私はある人物と知り合うことになったのですが…」

「おい、何を一人でぶつぶつやっている」

「あ…クラウスさん。いや、クレオさんに昔の話をしていたんですよ」
「本当か?」
「ええ。…昔出会った、あなたととてもよく似た人の話を、ね」





様々な『世界』に向かう度、私にはひとつわかったことがありました。
『世界』は無秩序な存在ではなく、まるで一本の木から生えた枝のように分岐し、どこかで繋がっているということを。
故に、私は『よく似た、でも違う存在』と出会うことが多くなりました。
といっても、必ず行った先の世界で出会う、ないしは巻き込まれる、助力する、とにかく関わることになる人物は、一人だけ。

銀色の髪に、硝子のような繊細な色彩の瞳。
壊れてしまいそうな細い身体、そして何よりも、誇り高い魂。

私が愛した彼女の名前は、『カナデ・アルディロード・ファインヤード』。
私の目の前にいる青年の名前は、『クラウス・ファインヤード』。

…ええ。彼こそが、『この世界の彼女』なのです。

――愛はさだめ、さだめは死。
変えられないと思った運命は、やはり変えられていないのかもしれない。
それでも、私は歩き続けよう。

『彼女』の思い出と共に。










もう何も語るまい。後編。
ちなみにタイトル元ネタだけ書いておきますと、

『愛はさだめ、さだめは死 』(ジェイムズ・ディプトリー Jr./ハヤカワ文庫SF)

でごわす。気になる方は検索をと言いたいのですが虫が駄目な方はご遠慮下さいな。


ではでは、お待たせした上無駄に長くて失礼しましたー。
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by SSS-in-Black | 2009-01-25 20:17 | 【Re:MF】