小ネタ書き散らし用。


by SSS-in-Black

【100-17】悲鳴

そこに、ある窓があった。

沈黙の室内から、少年は星空を見上げる。

もう、誰にも束縛されずに、この夜空が見れる。


「星、好きなのかい?」


沈黙に耐えきれず、クレオは問う。

一方の少年は、破られた沈黙に短く返答する。


「好き」

「何故?」

「…汚れてない、から」


僕みたいに。

小さな言葉の断片は、空に呑み込まれる。

そして、再び舞い降りてくる、沈黙の洪水。





「では、私はこのあたりで」

「おう」


アブドルとガロの短い会話。

メイザスは入り口の方へと向き直る。


「今日は本当に助かりました、アブドル」

「いえいえ、こちらこそ」

「おいアブドル、土産だ。子供に持って帰ってやんな」

「…ありがとうございます」


子供? ──旅人は疑問に思う。

果たして人形が、子供を持てるのだろうか。


「預かっている子が二人いるんです…一人はまだこちらに来たばかりで、泣いてばかりで」


そう告げる、アブドルの軽い笑み。

メイザスはそれに、父親の面影を、感じた。





「…ねえ」

「! ──なんだい?」


少年が珍しく、口を開いた。

クレオからの会話は続かない。では、こちらはどうだろうか。


「笑い声が聞こえる…」

「ああ、あれは多分、うちの爺さんの」

「…笑う、か」


笑ったことなど、あっただろうか。

悲鳴を微笑で埋没できるだろうか。

この喉は、悲鳴を捨てきれるだろうか。

僕自身は、過去の束縛から放たれるのだろうか。


まだ、『商品』としての痛みは続いている。

白い服の、ゆったりとした袖から覗く青白い痣──。





+ + + + +


【悲鳴】…少年が今まで発してきていたもの。

【痣】…少年が自由となった今もとらわれているもの。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-25 06:44 | 【100 title】

【100-16】正夢

そこに、ある夢があった。

それは、ただの夢ではなかった。

そう、『現実』であった。

夢と現の境界は曖昧で、だがこれは、現実であった。

現実で在れと願い、信じていた。


──悪い夢から覚めたかのように、彼はやってきた少女を見る。

扉の向こうからやってきた、健康的で気の強そうな少女。

悪い人ではないと、少年は瞬間的に『理解する』。


彼の瞳は、嘘を見破る、真を映し出す鏡。

対象の価値を理解する、実に不思議な瞳。

能力の理由は不明だが、発現したのは少し前。


だから少年は、ここに来た。

自分を救い出した人は、佳い人だったから。

そしてまた彼女も、佳い人なのであろう。


「こわがらなくていいよ…はじめまして」

「…こわがってなんか、ない」


貴方は、佳い人だから。


「…ごめん。あたしはクレオ・ファルフェイっていうんだ」

「…クレオ」

「そう。『紅の獅子』っていう意味らしいね」

「獅子…」


クレオは、佳く強い獅子だから。

少年には無いものを、沢山、持っているだろう。


「あんたを助けたのは、あたしの親父、レオン。真下の部屋のまた隣で、仲間と一緒に打ち上げをやってるはずさ」

「…うちあげ?」

「ああ。うちの親父はああ見えても」


レジスタンスの頭領として、国家に対する戦いの日々を送っているんだ。


「たまたま反乱軍側の裏切り者があの店を経営していてね。だから、襲撃と共にあんたを助けた」

「…」


すると、もう、あの店は、無いのか。

何故か視界が揺らいでいく、ああ、いつの間にか──。


少年は、現の中で、泣いていた。





+ + + + +


【瞳】…一見、何の変哲もない灰色の瞳。しかし、『見た対象の価値』を知る事が出来る。力の真相は不明。

【レジスタンス】…反乱軍とも。フィラータという国家に対し、人間の権利を確立させるため、日夜戦いを続けている組織。現在のリーダーはレオン・ファルフェイ。


アブドルさんはレジスタンスに荷担しています。
プロトタイプ故の感情、利害の一致から始まったのかと。
そこら辺も書きたいのぅ。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-22 22:17 | 【100 title】

【100-15】飛行

そこに、ある一枚の羽が落ちていた。


それは、鴉の羽のように見えた。

しかし、うっすらと、仄かに、紅い。

鴉でないとしたら、では何の羽なのだろう。

この手で、触れてみたいが、出来ない。

いや──そういえば出来るんだっけと、少年は立ち上がる。

自分の意思では立ち上がれない、『商品』としての暮らしは終わったのだ。

ほんの一時の安らぎなのかもしれないし、またあの暗い部屋に戻る運命なのかもしれない。

そんな不安定な、不確定な、不透明な現状でも、動けるだけで、なんと嬉しいことなのだろうか。

踏み出した床は叫ばない、泣き声も罵声も懺悔もあえぎ声も何もかもが、まるで体内に侵入してこない。

もしかしたら、生まれて初めての、完全な静寂と感動と恐怖とのうちに、彼はそうっと、その手を伸ばす。

壊さないように、壊したら、戻ってこないから、壊さないように、壊れないように、白い手が意思をもって動く。


幻は、星空の元、飛び去って、新たな風が、ノックを運ぶ。


「入っても、いいかい?」


遠慮がちに、でも、明らかに。

運命は長すぎた助走を終え、飛び立つ。

やがて至るであろう、幸福と自由の待つ処へと。





+ + + + +


【羽】…赤みをおびた黒い羽。少年が触れると消えてしまった、謎の羽。

【『商品』】…かつての少年。逃れられない運命のひとつであり、自由も意思も、全てが奪われる。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-08 13:55 | 【100 title】

【100-14】雲母

そこに、ある食材があった。


「さてと、まあ何も出さないってのも俺の信念に反するからな、ちょっと待ちな。腕によりをかけて美味しいのつくってやる、えっと…あんた、そういえば、名前は何て言うんだい?」


クレオが階段をゆっくりと上昇していく足音が遠ざかっていく。

鼓膜を叩く、軽やかでいて厳しい、古い木材の奏でる、ギシギシというメロディー。

それに重なるよう、ガロがカウンターの扉を押し開け、閉じて、料理の準備を始める。


「…申し遅れました、私は、旅人のメイザスという者です」

「ほう…『最後の風』か」

「…?」

「いやな、古代語の意味を当てはめてみただけだ。老いぼれの変な癖だよ…ああ、俺の事は『ガロ爺』でも『じいさん』でもいいからな」

「…私の事も、メイザスで構いませんよ、『ガロ爺』」


それと、と言って、メイザスは外套の下に隠れていた友人を呼ぶ。

彼女は器用に彼の肩口から頭の上にまで上り、にゃあ、と一声。


「…猫、かい?」

「ええ、厳密には違いますが」


猫、すなわちフィフィは、再び、にゃあ、と鳴く。

雲母を散らしたような瞳が、どうやらガロを迷わせたらしい。

キラキラひかる、怪しく光る、二つの瞳は人の瞳と大きく違う。


(『器』なんです)


子猫の肉体という。

ある魂を封じ込めた。

ある大切な人を閉じ込めた。

器なのです、と、旅人は、心の内で、呟いた。





+ + + + +


【食材】…鮮度に期待してはいけない、実も期待してはいけない、粗悪な素材。

【器】…肉体という器に入るのは、魂という内容。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-05 22:18 | 【100 title】

【100-13】星空

そこに、ある老爺がいた。


「丁度いい所に、クレオ…おや、そちらはお客さんかい? それとも…」

「平気さ、ガロ爺。むしろあたしの命の恩人。こっちは…」

「なぁに、いくら目が悪くともわかるわ。そんな白髪でひょろ長い奴は、アブドルの奴しかいない」


けらけらと笑うと、彼はカウンターの扉を押し開けた。

人のことを言えないくらいの白髪だが、腰は曲がっておらず、肌の色は健康的で。

よくよく見れば、右頬には、一筋の古傷が。


「旅人さん、生憎ここじゃ飯は粗末なもんしか食えねぇ。宿泊も、最後の一部屋を取られちまった」

「取られた?」

「ああ、お前の親父がやけに綺麗な子供を連れてきてな…実は、そいつの事を頼みたい」

「…どういうことなんだい、ガロ爺」



二人の紅い瞳が交差する。


「あの子供が今までどんな状況下にいたかは、あえて言わねぇ。ただな、心に深い傷を負っちまってるのは確かだ。お前の仕事は、そいつを癒すことだ」

「心の傷を、ねぇ…年はあたしと変わらないくらいかい? なら、引き受けてやってもいいけどサ。下手なガキは嫌いなんだよ、すぐ泣くから」

「ああ、その点は大丈夫さ」


あの子供は、泣くことさえも忘れ果て、ただ他人の欲に呑まれていたから。


「引き受けるなら、お前の好きな星空のよく見えるあの部屋に行きな。奴はそこで、抜け殻みたいに空を見てるはずだからな」


そう言って。

ガロは、クレオに、錆びた鍵を投げて寄越した。

今にも消えそうなランプの下、流星のように尾をひいて。





+ + + + +


【ガロ】…愛称ガロ爺、本名は今や義理の息子であるレオンしか知らない。彼等の溜り場である酒場の主、昔は戦士で今は料理人。

【お前の親父】…クレオの父、レオンの事。ガロの今は亡き娘がレオンの妻で、その子供がクレオである。


二つ前の話と繋がりました。
とりあえず、『少年』の過去をダイレクトに語ることは無いということで。
そんな過去を背負っているのです、心身共に傷付くような過去を、時間を過ごしてきたのです。
現実にもそのような子供は、まだまだ沢山いるのではないかと思います。
そんな大人が、嫌い、うん。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-03 19:16 | 【100 title】

【100-12】満月

そこに、ある酒場があった。


「ここだよ、旅人さん」

肝心の旅人は、道中で聞いた話に、軽く混乱している様子。

その真横で、裏切り者の魔導人形は苦笑いをしている。

話の内容は、国の成り立ちと魔導人形の誕生について。

複雑怪奇で、しかし真っ直ぐな理由に、旅人は頭を悩ませていた。


昔、むかし。

ある国王が、最愛の娘を亡くした時。

ある研究者が、彼女を生き返らせた。


研究者の名は、ミス・エヴリン・ハバル。

魔導人形を生み出し、『神』と呼ばれた初老の女性。

生き返った娘の名は、フランシーヌ。

この世で最初の、『オリジナル』と呼ばれる、魔導人形。


彼女はその後、ミス・エヴリンを殺害、ハダリーと名を改め、ある理想を抱く。


「人間になりたい──龍と人、二つが交わり産み落とす、その血が欲しい、それだけが!」


──そう願うばかりに、暴走した彼女は、やがてある魔道師に封印されてしまう。

魔道師の名は、『人形使い』アリシヤ・クラウリー。


この一連の『事件』と前後するように、魔導人形の開発も進んでいった。

人間と言ってもよい程のハダリー、すなわち『オリジナル』。

それをベースにし、やや人間に近い性格や性質をもつ『プロトタイプ』。

更に改良を加え、人間味は薄れたものの、大量生産が可能となった『レプリカ』。

この中で特に『プロトタイプ』は、その確固たる意思で、国家に対して危険思想を抱くため、排除運動が行われている。


そう、今やこの国は、魔導人形が治める国──人間はすべて、辺境の地においやられ、しがみつき、へばりつき、生きている。

立ち上がる時機を、待ち望んで。





+ + + + +


【ミス・エヴリン・ハバル】…心優しい研究者にして、悲劇の元凶。生涯独身を貫き通し、殺される。

【フランシーヌ/ハダリー】…年は十歳前後、魔導人形と化してからは年をとらない。現在も封印されている。

【アリシヤ・クラウリー】…詳細不明、ハダリーを『ドールハウス』に閉じ込めた天才にして『英雄』。

【プロトタイプ】…例えばアブドル・アルハザド。彼のように、身分詐称をしている者も存在している。

【レプリカ】…例えばフォルト・ラン・シェル。レプリカはプロトタイプと比べ戦闘能力に劣るが、それでも十分。


長々と、こればかりは削れない。
今回のキーパーソン三人(四人?)は、ノート企画者様である通称『王』のキャラです。
ミス・エヴリンの名前の由来に感動したり、アリシヤが実は後々私にとんでもない影響を及ぼしたり、マジサンクスですよ、王。

ぶっちゃけ。
本人はその気がなかったらしいですが、アリシヤ・クラウリーの名前の由来を、アレイスター・クロウリーかと思いまして。
それに対抗して、メイザスが出て来たわけです。うい、このシリーズの主人公ですよ。
『いつもの名前』ではなく『偽名』を使いたかったので、本当にいいネタを拾えました。
私は嬉しいです、まる。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-02 21:19 | 【100 title】

【100-11】太陽

そこに、ある獅子がいた。


彼は剣についた血をはらうと、歩を進める。

ギィ、と腐りかけた床板が惨めにも悲鳴をあげる。

彼はそれ程に立派な体格と、風格と、性格を持っていた。

開けようとする扉と同じくらいの、鈍く鋭く輝く、巨大剣。

真紅の眼は炯々と、何か一つの大きな目的を見据えながら。

世界を変えようと叫ぶ人々を率いて、自ら前に立ち戦い続ける。


彼の名は、『陽光の獅子』、レオン・ファルフェイ。


たてつきの悪い扉を開けて、最初に感じたのは、こもった匂い。

窓の無い、真っ暗な部屋に、動物が──人形が、人間が、ひとり。

ひとり、かさりと、ボロという名の毛布を引っ張り、身を固くする。


真こそ罪となりうるこの世なら、汚れを燃やせ、紅き太陽。


その白い肌を何に比べてよいものか。

その銀の髪を何に例えてよいものか。

その哀の瞳を何に歌えばよいものか。


「…少年、名は」

「…知らない」


窓の無い部屋に、絶望と希望が流れ込む。

太陽の、ひとつも、無い、部屋に。





+ + + + +


【レオン・ファルフェイ】…金の髪に真紅の瞳、背丈は二メートル超、名前は古代語で『強き獅子』という意味。

【巨大剣】…『レオ・フラウダ・グレイズ』、古代語で『舞い狂う獅子』という意味。

【少年】…銀の髪に銀の瞳、彼のいう通り名前は『無い』。


今回はちょっと視点をずらした話。
前の話とは同時進行だと考えて下さい。

『真』が『罪』になる、は言葉遊び。
真→シン→sin→罪、みたいな、なんとなく。

あと、前回、冒頭の一文忘れt(ry)。
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# by SSS-in-Black | 2006-12-02 20:32 | 【100 title】

【100-10】調和

「おや…その方とはお知り合いですか、クレオ」

「一応、そういうことらしいけど、どちらかといえば命の恩人かもしれない」

「成程…しかし彼女と撃ち合うとは、腕も度胸もしっかりとしている証拠ですね」


それほどの射手であった、『彼女』は。

心の迷い、風の乱れ、何も生じなかった。

まるで、生まれてきてからずっと、戦いの渦中に身を置いていたかのように、動じなかった。

それが、『魔導人形』。人の形をした、人ではない存在。

そして旅人は、相変わらずその『人にあらざるもの』の気配を感じていた。

そう、目の前に。


「…失礼ですが、名前は」

「ああ、こちらこそ失礼。私の名は、アブドル・アルハザド──お察しの通り、『試作の魔導人形』です」


と。

気付かぬうちに、旅人は再び引金に指をのばしていた。

それを見て、アブドルは笑みを浮かべ、口ずさむ。


「黒き森、住まう我等は籠の鳥、餌を求めて互いを喰らう」

「痩せた地に、住まう我等は籠の鳥、羽を集めて暖を求める」


続けて少女も歌った。

成熟した低い声と、まだ若い高い声。

それらは調和し、美しく響きわたっていく。


「私は『搾取する』のではなく、『与える』人形──いわば、裏切り者です」





+ + + + +


【試作の魔導人形】…『プロトタイプ』のこと。魔導人形の中で、比較的初期につくられたものを指す。『レプリカ』との違いは別の話にて。

【籠】…貿易や出兵を除き、基本的に神国から外へは出られない。

【餌】…利益のこと。基本的に奴隷の輸出によって発生する。

【痩せた地】…神国フィラータのこと。農作物はまず育たない。

【羽】…外へと、解放を望む力のこと。
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# by SSS-in-Black | 2006-11-18 07:29 | 【100 title】

【100-9】繁栄

戦火を 知らぬ子は見る 青空を 切り取ったのは 僅かな繁栄


姿を見ればそれは軍人、しかも、女性。

眼鏡の向こうから覗く藍玉色の瞳は、鋭かった。

手には拳銃、腰には長剣、美しい容姿に似合わぬ武装。

彼女は『魔導人形』であった、生まれついての兵士であった。

──おかしい、と思いつつ、だが旅人は真実を全くもって知らない。

人間ではないが、そうだとすれば何者なのだ? …見極めるため、再び構える。

一対一。旅人の脇には少女が立ち、精霊は風をその身に纏わせつつ浮遊している。


「「…」」


呼吸の音は、二つ。

旅人と少女のもののみ。

と──一つの声が、した。


「どこですか、フォルトさん?」

「! ──ここに」


がさがさと、新たな足音。

それが助けか、それとも危機か。

フォルトと呼ばれた女性軍人は、声に答える。

ほぼ同時に旅人は、少女の緊張が解けるのを感じる。


「おやおや、怪我までして…大丈夫ですか? 直ちに帰還して技術開発局へ向かい、修理を」

「はっ」


さっ、と手をあげて敬礼すると、軍人は素早く叢に消える。

そして、現れた男はと、いえば。


「おやおや、お久しぶりですね、クレオ」


白髪紅瞳、すらりと背の高い、やはり軍人。

その姿をみて、少女の顔は、輝きに満ちた。


「アブドル、さん」





+ + + + +


【フォルト・ラン・シエル】…紅茶色の髪に藍玉色の瞳を持つ、魔導人形の女性軍人

【技術開発局】…魔導人形の製作から修理までを手掛ける役所の名


ササミノートよりゲスト出演、フォルト嬢。
本当は相方も出したかったです、が、うん。
暴走しそうで怖くなりましたが何か。
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# by SSS-in-Black | 2006-11-09 16:20 | 【100 title】

【100-8】衰退

そこに、ある子供がいた。

何かに呼ばれたような気がして、目を、開く。


「あ、目覚めましたか…クレオ」

「!」

跳ね起きる。

目の前には、先程戦った男がいた。

そして何故か、彼は子供の名を知っていた。

子供は断言できる、この男は知らない人物だと。


『魔導人形』が絶対の権力を持つ、神国フィラータ。

遥かはるか昔から住んでいた人々は、スラム街へと追いやられた。

そして、そこに住む者は、余程の手段を使わぬ限り、出入りは出来ない。

戦うための手段がなくては──それこそ、『魔導人形』に等しいほどの力が。

実際に子供は、有り得るとは認識していても、国境を越えた者がいるとは、信じていなかった。

自分の父以外に。


「何者だ!」

「私は、メ…危ないっ!」


パン。

短い銃声が旅人の髪を僅かにさらう。

弾丸は立て続けに空気を引き裂いてゆく。

子供をかばいながら、旅人は杖を引き寄せた。

今まで姿を隠していた精霊と、狙撃手が現れたのは、ほぼ同時。

精霊は杖より力を回収し、拳銃へと形状を戻す。

狙撃手は拳銃を構え直し、狙撃対象を旅人へと変更する。


パン。


銃声が重なった。

それ以外、何一つ、音は無い。


血を流した者は、いなかった。

しかし、違う何かを、流していた。

それは。



精霊の力の破片、魔力、そのものを。

狙撃手は肩に穿たれた穴より、流していた。



花は枯れ 廃墟の街に 塵の風 今宵も月は 決して見えない





+ + + + +


【ある子供】…年齢は十歳ほど、旅人が『クレオ』と呼んだ真意は不明

【魔力】…いわば『魔導人形』の血液ともいわれる存在、魔導師より採取可能
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# by SSS-in-Black | 2006-10-05 22:05 | 【100 title】