【100-35】旅人
2009年 02月 02日
そこに、旅人が現れた。
彼は血溜まりに倒れる男女を見、男の方に近寄る。
「しっかりしてください、レオン殿」
右手には杖を抱き、左肩には精霊を乗せて。
メイザスは、重傷を負ったレオンの傷口に手を翳した。
「フク、転送用意を」
「わかった」
フクは主の肩から飛び降り、二人を囲むようにくるくると旋回を始める。
その足跡が円となり、その重なりが陣となる。
一方でメイザスは、手に仄かな光を宿していた。
口から紡がれる言の葉は、どこか異国の響きを湛えて。
「…そうだ」
詠唱を完了させ、右手で光を掴んだまま、今度は杖の先に光を灯す。
――それは、嵐のような凶暴な色をした光。
掌の光とは真逆の力を持っていると、誰が見ても直ぐにわかってしまう。
思いついたように彼はまた唱え始めて、呼応して灯された光も凶悪になってゆく。
「私は、あまり女性の、それも遺体を傷つけようなんて思いませんけど、」
それが契機となって、
「でも、今回ばかりは許してくださいね。…容赦しませんが」
風刃が、弾けた。
彼女の周りで飛び跳ねていた血の魚も、肉の小波も全て巻き込んで。
放たれた魔術は、その遺体をずたずたに裂いてゆく。
「メイザス、『飛べるよ』」
「…。ならば、『飛びましょう』」
フクの編んだ魔術も、主の最後の了承で完成する。
沸き上がる風、吹き止まない風。
怪我人を旅人は庇うように、レオンの巨大な肉体のうち特に胴を守るように、彼は実行を待つ。
司会の片隅には、断片へと姿を変えてゆく人体であったモノ。
吐き気をもよおすようなそれも、彼にとっては別につまらないものとなり果てていた。
「行くよ!」
宣言と同時に、二人は風の球体に閉じこめられた。
風、風、風、風――部屋の中がすべて、風になるかのような勢いで。
精霊は、二人を一気に、目的地へと飛ばした。
――残されたのは、肉を切り刻む風の音ばかり。
…
――それも、いきなりかき消される。
降り立ったのは、一人の少女。
年はまだ若く、黒髪が黒い衣服に溶け込む姿は幻想的ですらある。
彼女は惜しげもなく大気に晒した、黒い編み目模様に彩られた四肢をそっと動かし、跡形もなくなりそうなまでに切り刻まれた血肉の元へと歩を進める。
「やられたのね、『双魚』」
唯一の例外である、絶命したそのままの表情を浮かべた首に向かって。
語りかける様子にも、視線にも悲しみはなく、むしろ憐れみが強調されていた。
それは階級的上位にある者だけが浮かべることを許された微笑。
首を持ち上げ、手を汚す絶え絶えの血潮すら忘れて、少女はひとりごちる。
「でも、貴方のお陰で『獅子』の尻尾が掴めたわ。
これで、また私たちが彼らよりも有利に駒を進められる。
それに…あの男は、何者なのかしらね?」
精霊の使役による転送魔法。
呪文の行使による回復魔法。
意思の使用による攻撃魔法。
全てを同時に、為してしまう程の力量。
「嗚呼…楽しみね、『双魚』」
少し間を置いてから、補うように「だったモノ」と付け加えて。
少女の口から覗いた赤い舌が、まるで蛇のように、艶やかに身震いした――。
+ + + + +
【異国の響き】…正しく言えば「異世界の響き」。メイザスの使う魔術には異世界の律を取り入れたものも存在する。
【少女】…かつてスザクやサイレスに道を示した少女と似ているが、違う少女。
【意思の使用による攻撃魔法】…フクの加護を受けた杖の能力を引き出し、放つというある意味荒技。
久々に(ry
やりたいことができました。
『40』まではさくさくいきたいです。
彼は血溜まりに倒れる男女を見、男の方に近寄る。
「しっかりしてください、レオン殿」
右手には杖を抱き、左肩には精霊を乗せて。
メイザスは、重傷を負ったレオンの傷口に手を翳した。
「フク、転送用意を」
「わかった」
フクは主の肩から飛び降り、二人を囲むようにくるくると旋回を始める。
その足跡が円となり、その重なりが陣となる。
一方でメイザスは、手に仄かな光を宿していた。
口から紡がれる言の葉は、どこか異国の響きを湛えて。
「…そうだ」
詠唱を完了させ、右手で光を掴んだまま、今度は杖の先に光を灯す。
――それは、嵐のような凶暴な色をした光。
掌の光とは真逆の力を持っていると、誰が見ても直ぐにわかってしまう。
思いついたように彼はまた唱え始めて、呼応して灯された光も凶悪になってゆく。
「私は、あまり女性の、それも遺体を傷つけようなんて思いませんけど、」
それが契機となって、
「でも、今回ばかりは許してくださいね。…容赦しませんが」
風刃が、弾けた。
彼女の周りで飛び跳ねていた血の魚も、肉の小波も全て巻き込んで。
放たれた魔術は、その遺体をずたずたに裂いてゆく。
「メイザス、『飛べるよ』」
「…。ならば、『飛びましょう』」
フクの編んだ魔術も、主の最後の了承で完成する。
沸き上がる風、吹き止まない風。
怪我人を旅人は庇うように、レオンの巨大な肉体のうち特に胴を守るように、彼は実行を待つ。
司会の片隅には、断片へと姿を変えてゆく人体であったモノ。
吐き気をもよおすようなそれも、彼にとっては別につまらないものとなり果てていた。
「行くよ!」
宣言と同時に、二人は風の球体に閉じこめられた。
風、風、風、風――部屋の中がすべて、風になるかのような勢いで。
精霊は、二人を一気に、目的地へと飛ばした。
――残されたのは、肉を切り刻む風の音ばかり。
…
――それも、いきなりかき消される。
降り立ったのは、一人の少女。
年はまだ若く、黒髪が黒い衣服に溶け込む姿は幻想的ですらある。
彼女は惜しげもなく大気に晒した、黒い編み目模様に彩られた四肢をそっと動かし、跡形もなくなりそうなまでに切り刻まれた血肉の元へと歩を進める。
「やられたのね、『双魚』」
唯一の例外である、絶命したそのままの表情を浮かべた首に向かって。
語りかける様子にも、視線にも悲しみはなく、むしろ憐れみが強調されていた。
それは階級的上位にある者だけが浮かべることを許された微笑。
首を持ち上げ、手を汚す絶え絶えの血潮すら忘れて、少女はひとりごちる。
「でも、貴方のお陰で『獅子』の尻尾が掴めたわ。
これで、また私たちが彼らよりも有利に駒を進められる。
それに…あの男は、何者なのかしらね?」
精霊の使役による転送魔法。
呪文の行使による回復魔法。
意思の使用による攻撃魔法。
全てを同時に、為してしまう程の力量。
「嗚呼…楽しみね、『双魚』」
少し間を置いてから、補うように「だったモノ」と付け加えて。
少女の口から覗いた赤い舌が、まるで蛇のように、艶やかに身震いした――。
+ + + + +
【異国の響き】…正しく言えば「異世界の響き」。メイザスの使う魔術には異世界の律を取り入れたものも存在する。
【少女】…かつてスザクやサイレスに道を示した少女と似ているが、違う少女。
【意思の使用による攻撃魔法】…フクの加護を受けた杖の能力を引き出し、放つというある意味荒技。
久々に(ry
やりたいことができました。
『40』まではさくさくいきたいです。
by SSS-in-Black
| 2009-02-02 20:09
| 【100 title】