【100-18】願望
2006年 12月 27日
そこに、ある鏡があった。
鏡は常に真を映すものであった。
昔々、ある国に、他人を信じられない男がいた。
騙されるのが怖くて、男は部屋に閉じ籠ってばかりだった。
そのため、男は希望や未来というものを捨ててしまった。
ある日、男の妹が、鏡を彼にもってきた。
旅の商人より買ったそれは、美しく澄んでいた。
男は鏡に映る自分の顔を見て、絶望した。
瞳に光が無いことに、気付いてしまった。
それは他人を恐れるせいか、わからないが。
男はあまりに醜悪な、そして愚かな瞳を呪った。
まるで希望も未来もない、自分自身を代弁するかのような、濁った瞳。
やがて男は狂ってしまった。
自分を陥れる他人が悪いのか、他人を恐れる自分が悪いのか。
騙し合いによる日々が悪いのか、日々を造り出す何者かが悪いのか。
ヒカリを、光を、我が瞳に、神よ。
忘れたはずであった神への祈りを毎日欠かさず天に捧げても、神を誉め称える言葉を唱えても。
他人を受け入れようとしても、外で太陽の光を浴びても、男の願望は叶わなかった。
絶望の縁に立たされたまま、ついに男は鏡を叩き割った。
割れた鏡の欠片が飛び散り、いくつかは男の瞳に突き刺さった。
それからなのだという。
鏡のように、万物の実相を映す、不思議な瞳を持つ人々が現れたのは。
鏡を割った愚かな男の子孫、『星薙の一族』は、現在、ほんの僅かしかいないのだという──。
+ + + + +
【鏡】…正式名称は『星薙鏡(せいていきょう)』というらしい。何か強大な力を秘めた一品だったのではないかという噂もある。
【男】…『星薙の愚者』とも呼ばれる。ただ一枚の鏡によって狂い暴走した者。
【妹】…『星薙の聖者』とも呼ばれる。ただ一枚の鏡によって奇跡を生み出した者。
【星薙の一族】…ほしなぎのいちぞく。女尊男卑の珍しい一族で、現在滅亡の危機にある。物の実相を見極める、言わば『鑑定』の能力を大半が持っている。
【星薙の物語】…神国に伝わる物語のひとつ。他人を信じることについてが述べられている。
鏡は常に真を映すものであった。
昔々、ある国に、他人を信じられない男がいた。
騙されるのが怖くて、男は部屋に閉じ籠ってばかりだった。
そのため、男は希望や未来というものを捨ててしまった。
ある日、男の妹が、鏡を彼にもってきた。
旅の商人より買ったそれは、美しく澄んでいた。
男は鏡に映る自分の顔を見て、絶望した。
瞳に光が無いことに、気付いてしまった。
それは他人を恐れるせいか、わからないが。
男はあまりに醜悪な、そして愚かな瞳を呪った。
まるで希望も未来もない、自分自身を代弁するかのような、濁った瞳。
やがて男は狂ってしまった。
自分を陥れる他人が悪いのか、他人を恐れる自分が悪いのか。
騙し合いによる日々が悪いのか、日々を造り出す何者かが悪いのか。
ヒカリを、光を、我が瞳に、神よ。
忘れたはずであった神への祈りを毎日欠かさず天に捧げても、神を誉め称える言葉を唱えても。
他人を受け入れようとしても、外で太陽の光を浴びても、男の願望は叶わなかった。
絶望の縁に立たされたまま、ついに男は鏡を叩き割った。
割れた鏡の欠片が飛び散り、いくつかは男の瞳に突き刺さった。
それからなのだという。
鏡のように、万物の実相を映す、不思議な瞳を持つ人々が現れたのは。
鏡を割った愚かな男の子孫、『星薙の一族』は、現在、ほんの僅かしかいないのだという──。
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【鏡】…正式名称は『星薙鏡(せいていきょう)』というらしい。何か強大な力を秘めた一品だったのではないかという噂もある。
【男】…『星薙の愚者』とも呼ばれる。ただ一枚の鏡によって狂い暴走した者。
【妹】…『星薙の聖者』とも呼ばれる。ただ一枚の鏡によって奇跡を生み出した者。
【星薙の一族】…ほしなぎのいちぞく。女尊男卑の珍しい一族で、現在滅亡の危機にある。物の実相を見極める、言わば『鑑定』の能力を大半が持っている。
【星薙の物語】…神国に伝わる物語のひとつ。他人を信じることについてが述べられている。
by SSS-in-Black
| 2006-12-27 00:06
| 【100 title】